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虞美人草 五 (1)

时间: 2021-03-29    进入日语论坛
核心提示: 山門を入る事一歩にして、古き世の緑(みど)りが、急に左右から肩を襲う。自然石(じねんせき)の形状(かたち)乱れたるを幅一間に
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 山門を入る事一歩にして、古き世の(みど)りが、急に左右から肩を襲う。自然石(じねんせき)形状(かたち)乱れたるを幅一間に行儀よく並べて、錯落(さくらく)と平らかに敷き詰めたる(こみち)に落つる足音は、甲野(こうの)さんと宗近(むねちか)君の足音だけである。
 一条(いちじょう)の径の細く(すぐ)なるを行き尽さざる此方(こなた)から、石に眼を添えて(はる)かなる向うを(きわ)むる行き当りに、(あお)げば伽藍(がらん)がある。木賊葺(とくさぶき)の厚板が左右から内輪にうねって、(だい)なる両の翼を、(けわ)しき一本の背筋(せすじ)にあつめたる上に、今一つ小さき家根(やね)が小さき翼を()して乗っかっている。風抜(かざぬ)きか明り取りかと思われる。甲野さんも、宗近君もこの精舎(しょうじゃ)を、もっとも趣きある横側の角度から同時に見上げた。
「明かだ」と甲野さんは(つえ)(とど)めた。
「あの堂は木造でも容易に壊す事が出来ないように見える」
「つまり恰好(かっこう)(うま)くそう云う風に出来てるんだろう。アリストートルのいわゆる理形(フォーム)(かな)ってるのかも知れない」
「だいぶむずかしいね。――アリストートルはどうでも構わないが、この辺の寺はどれも、一種妙な感じがするのは奇体だ」
舟板塀(ふないたべい)趣味(しゅみ)御神灯(ごじんとう)趣味(しゅみ)とは違うさ。夢窓国師(むそうこくし)が建てたんだもの」
「あの堂を見上げて、ちょっと変な気になるのは、つまり夢窓国師になるんだな。ハハハハ。夢窓国師も少しは話せらあ」
「夢窓国師や大燈国師になるから、こんな所を逍遥(しょうよう)する価値があるんだ。ただ見物したって何になるもんか」
「夢窓国師も家根(やね)になって明治まで生きていれば結構だ。安直(あんちょく)な銅像よりよっぽどいいね」
「そうさ、一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ」
「何が」
「何がって、この境内(けいだい)景色(けしき)がさ。ちっとも曲っていない。どこまでも明らかだ」

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