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虞美人草 五 (7)

时间: 2021-03-29    进入日语论坛
核心提示: 急灘(きゅうなん)を落ち尽すと向(むこう)から空舟(からふね)が上(のぼ)ってくる。竿も使わねば、櫂は無論の事である。岩角に突
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 急灘(きゅうなん)を落ち尽すと(むこう)から空舟(からふね)(のぼ)ってくる。竿も使わねば、櫂は無論の事である。岩角に突っ張った懸命の(こぶし)を収めて、肩から斜めに目暗縞(めくらじま)(から)めた細引縄に、長々と谷間伝いを根限り戻り舟を()て来る。水行くほかに尺寸(せきすん)の余地だに見出(みいだ)しがたき岸辺を、石に飛び、岩に()うて、穿()草鞋(わらんじ)()り込むまで腰を前に折る。だらりと下げた両の手は()かれて(そそ)ぐ渦の中に指先を(ひた)すばかりである。うんと踏ん張る幾世(いくよ)の金剛力に、岩は自然(じねん)()り減って、引き懸けて行く足の裏を、安々と受ける段々もある。長い竹をここ、かしこと、岩の上に渡したのは、牽綱(ひきづな)をわが勢に(さから)わぬほどに、()(すべ)らすための(はかりごと)と云う。
「少しは(おだや)かになったね」と甲野さんは左右の岸に眼を放つ。踏む角も見えぬ切っ立った山の(はる)かの上に、(なた)の音が丁々(ちょうちょう)とする。黒い影は空高く動く。
「まるで猿だ」と宗近君は咽喉仏(のどぼとけ)を突き出して峰を見上げた。
()れると何でもするもんだね」と相手も手を(かざ)して見る。
「あれで一日働いて若干(いくら)になるだろう」
「若干になるかな」
「下から聞いて()ようか」
「この流れは余り急過ぎる。少しも余裕がない。のべつに(はし)っている。所々にこう云う場所がないとやはり行かんね」
「おれは、もっと、駛りたい。どうも、さっきの岩の腹を突いて曲がった時なんか実に愉快だった。(ねがわ)くは船頭の(さお)を借りて、おれが、舟を廻したかった」
「君が廻せば今頃は御互に成仏(じょうぶつ)している時分だ」
「なに、愉快だ。京人形を見ているより愉快じゃないか」
「自然は皆第一義で活動しているからな」
「すると自然は人間の御手本だね」
「なに人間が自然の御手本さ」
「それじゃやっぱり京人形党だね」

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