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虞美人草 七 (2)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示: 二個の世界は絶えざるがごとく、続かざるがごとく、夢のごとく幻(まぼろし)のごとく、二百里の長き車のうちに喰い違った。二百
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 二個の世界は絶えざるがごとく、続かざるがごとく、夢のごとく(まぼろし)のごとく、二百里の長き車のうちに喰い違った。二百里の長き車は、牛を乗せようか、馬を乗せようか、いかなる人の運命をいかに東の(かた)(はこ)び去ろうか、さらに無頓着(むとんじゃく)である。世を(おそ)れぬ鉄輪(てつわ)をごとりと(まわ)す。あとは驀地(ましぐら)(やみ)()く。離れて合うを待ち()び顔なるを、()いて帰るを快からぬを、旅に馴れて徂徠(そらい)を意とせざるを、一様に(つか)ねて、ことごとく土偶(どぐう)のごとくに遇待(もてなそ)うとする。()こそ見えね、(さか)んに黒煙(くろけむり)を吐きつつある。
 眠る夜を、生けるものは、提灯(ちょうちん)の火に、皆条に向って動いて来る。梶棒(かじぼう)が下りるとき黒い影が急に明かるくなって、待合に入る。黒い影は暗いなかから続々と現われて出る。場内は生きた黒い影で(うず)まってしまう。残る京都は定めて静かだろうと思われる。
 京の活動を七条の一点にあつめて、あつめたる活動の千と二千の世界を、十把一束(じっぱひとからげ)に夜明までに、あかるい東京へ()し出そうために、汽車はしきりに煙を吐きつつある。黒い影はなだれ始めた。――一団の塊まりはばらばらに(ほご)れて点となる。点は右へと左へと動く。しばらくすると、無敵な音を立てて車輛(しゃりょう)の戸をはたはたと締めて行く。忽然(こつぜん)としてプラットフォームは、()る人を()いて捨てたようにがらんと広くなる。大きな時計ばかりが窓の中から眼につく。すると口笛(くちぶえ)(はる)かの(うし)ろで鳴った。車はごとりと動く。互の世界がいかなる関係に織り成さるるかを知らぬ()に、闇の中を鼻で行く、甲野さんは、宗近君は、孤堂先生は、可憐なる小夜子は、同じくこの車に乗っている。知らぬ車はごとりごとりと廻転する。知らぬ四人は、四様の世界を喰い違わせながら暗い夜の中に入る。
「だいぶ込み合うな」と甲野さんは室内を見廻わしながら云う。
「うん、京都の人間はこの汽車でみんな博覧会見物に行くんだろう。よっぽど乗ったね」
「そうさ、待合所が黒山のようだった」
「京都は(さび)しいだろう。今頃は」
「ハハハハ本当に。実に閑静な所だ」
「あんな所にいるものでも動くから不思議だ。あれでもやっぱりいろいろな用事があるんだろうな」
「いくら閑静でも生れるものと死ぬものはあるだろう」と甲野さんは左の膝を右の上へ乗せた。

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