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虞美人草 七 (4)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示:「乗る人があるからって――余(あんま)りだ。あれで布設したのは世界一だそうだぜ」「そうでもないだろう。世界一にしちゃあ幼稚
(单词翻译:双击或拖选)
「乗る人があるからって――(あんま)りだ。あれで布設したのは世界一だそうだぜ」
「そうでもないだろう。世界一にしちゃあ幼稚過ぎる」
「ところが布設したのが世界一なら、進歩しない事も世界一だそうだ」
「ハハハハ京都には調和している」
「そうだ。あれは電車の名所古蹟だね。電車の金閣寺だ。元来十年一日のごとしと云うのは()める時の言葉なんだがな」
「千里の江陵(こうりょう)一日に還るなんと云う句もあるじゃないか」
「一百里程塁壁の間さ」
「そりゃ西郷隆盛だ」
「そうか、どうもおかしいと思ったよ」
 甲野さんは返事を見合せて口を()じた。会話はまた途切れる。汽車は例によって(ごう)と走る。二人の世界はしばらく(やみ)の中に揺られながら消えて行く。同時に、残る二人の世界が、細長い()を糸のごとく照らして動く電灯の(もと)にあらわれて来る。
 色白く、傾く月の影に生れて小夜(さよ)と云う。母なきを、つづまやかに暮らす親一人子一人の京の住居(すまい)に、盂蘭盆(うらぼん)灯籠(とうろう)を掛けてより五遍になる。今年の秋は久し振で、亡き母の精霊(しょうりょう)を、東京の苧殻(おがら)で迎える事と、長袖の右左に開くなかから、白い手を尋常に重ねている。物の憐れは小さき人の肩にあつまる。()(かか)(いかり)は、()(おろ)す絹しなやかに(なさけ)(すそ)(すべ)り込む。
 紫に(おご)るものは招く、黄に深く情濃きものは追う。東西の春は二百里の鉄路に(つら)なるを、願の糸の一筋に、恋こそ誠なれと、髪に掛けたる丈長(たけなが)(ふる)わせながら、長き夜を縫うて走る。古き五年は夢である。ただ(した)たる絵筆の勢に、うやむやを貫いて(かっ)と染めつけられた昔の夢は、深く記憶の底に(とお)って、当時(そのかみ)を裏返す折々にさえ(あざや)かに煮染(にじ)んで見える。小夜子の夢は命よりも明かである。小夜子はこの明かなる夢を、春寒(はるさむ)(ふところ)に暖めつつ、黒く動く一条の車に()せて東に行く。車は夢を載せたままひたすらに、ただ東へと走る。夢を携えたる人は、落すまじと、ひしと燃ゆるものを()きしめて行く。車は無二無三に走る。野には(みど)りを()き、山には雲を衝き、星あるほどの夜には星を衝いて走る。夢を(いだ)く人は、抱きながら、走りながら、明かなる夢を暗闇(くらやみ)の遠きより切り放して、現実の前に()げ出さんとしつつある。車の走るごとに夢と現実の間は近づいてくる。小夜子の旅は明かなる夢と明かなる現実がはたと行き()うて区別なき境に至ってやむ。夜はまだ深い。

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