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虞美人草 七 (6)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示: 明かなる夢は輪を描(えが)いて胸のうちに回(めぐ)り出す。死したる夢ではない。五年の底から浮き刻(ぼ)りの深き記憶を離れて、
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 明かなる夢は輪を(えが)いて胸のうちに(めぐ)り出す。死したる夢ではない。五年の底から浮き()りの深き記憶を離れて、咫尺(しせき)に飛び上がって来る。女はただ(ひとみ)()らして眼前に(せま)る夢の、明らかに過ぐるほどの光景を右から、左から、前後上下から見る。夢を見るに心を奪われたる人は、老いたる親の(ひげ)を忘れる。小夜子は口をきかなくなった。
「小野は新橋まで(むかえ)にくるだろうね」
「いらっしゃるでしょうとも」
 夢は再び(おど)る。躍るなと抑えたるまま、夜を込めて揺られながらに、暗きうちを()ける。老人は髯から手を放す。やがて眼を(ねむ)る。人も犬も草も木も判然(はき)と映らぬ古き世界には、いつとなく黒い幕が下りる。小さき胸に躍りつつ、(まわ)りつつ、抑えられつつ走る世界は、闇を照らして火のごとく明かである。小夜子はこの明かなる世界を(いだ)いて眠についた。
 長い車は包む夜を押し分けて、やらじと(さか)う風を打つ。追い懸くる冥府(よみ)の神を、力ある尾に(たた)いて、ようやくに抜け出でたる暁の国の青く(けぶ)る向うが一面に()り上がって来る。茫々(ぼうぼう)たる原野の(おのず)から尽きず、しだいに天に(せま)って上へ上へと限りなきを怪しみながら、消え残る夢を排して、(まなこ)を半天に走らす時、日輪の世は明けた。
 神の()を空に鳴く金鶏(きんけい)の、(つばさ)五百里なるを一時に(はばたき)して、(みな)ぎる雲を下界に(ひら)く大虚の真中(まんなか)に、(ほがらか)に浮き出す万古(ばんこ)の雪は、末広になだれて、八州の()を圧する勢を、左右に展開しつつ蒼茫(そうぼう)(うち)に、腰から下を(うず)めている。白きは空を見よがしに貫ぬく。白きものの一段を尽くせば、(むらさき)(ひだ)(あい)の襞とを(なな)めに畳んで、白き()を不規則なる幾条(いくすじ)に裂いて行く。見上ぐる人は()う雲の影を沿うて、蒼暗(あおぐら)裾野(すその)から、藍、紫の深きを稲妻(いなずま)に縫いつつ、最上の純白に至って、豁然(かつぜん)として眼が()める。白きものは明るき世界にすべての乗客を(いざな)う。

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