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虞美人草 七 (8)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示:「もう直(じき)ですね」「ああ、もう訳はない」と長芋(ながいも)が髯の方へ動き出した。「今日はいい御天気ですよ」「ああ天気で
(单词翻译:双击或拖选)
「もう(じき)ですね」
「ああ、もう訳はない」と長芋(ながいも)が髯の方へ動き出した。
「今日はいい御天気ですよ」
「ああ天気で仕合せだ。富士が奇麗(きれい)に見えたね」と長芋が髯から折のなかへ這入(はい)る。
「小野さんは宿を()がして置いて下すったでしょうか」
「うん。捜が――捜がしたに違ない」と先生の口が、喫飯(めし)と返事を兼勤する。食事はしばらく継続する。
「さあ食堂へ行こう」と宗近君が隣りの車室で米沢絣(よねざわがすり)(えり)を掻き合せる。背広の甲野さんは、ひょろ長く立ち上がった。通り道に転がっている手提革鞄(てさげかばん)(また)いだ時、甲野さんは振り返って
「おい、蹴爪(けつま)ずくと危ない」と注意した。
 硝子戸(ガラスど)を押し()けて、隣りの車室へ足を踏み込んだ甲野さんは、真直(まっすぐ)に抜ける気で、中途まで来た時、宗近君が(うし)ろから、ぐいと背広の尻を引っ張った。
「御飯が少し冷えてますね」
「冷えてるのはいいが、硬過(こわす)ぎてね。――阿爺(おとっさん)のように年を取ると、どうも(こわ)いのは胸に(つか)えていけないよ」
「御茶でも上がったら……()ぎましょうか」
 青年は無言のまま食堂へ抜けた。
 日ごと夜ごとを入り乱れて、尽十方(じんじっぽう)に飛び()わす小世界の、(あま)ねく天涯(てんがい)を行き尽して、しかも尽くる期なしと思わるるなかに、絹糸の細きを(いと)わず植えつけし(かいこ)の卵の並べるごとくに、四人の小宇宙は、心なき汽車のうちに行く夜半(よわ)を背中合せの知らぬ顔に並べられた。星の世は()き落されて、大空の皮を奇麗に()ぎ取った白日の、隠すなかれと立ち(のぼ)る窓の(うち)に、四人の小宇宙は(ぐう)を作って、ここぞと互に()れ違った。擦れ違って通り越した二個の小宇宙は今白い卓布(たくふ)を挟んでハムエクスを平げつつある。
「おいいたぜ」と宗近君が云う。

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