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虞美人草 八 (3)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示:「どこへ行って、そんな事を云ったんです」「宗近(むねちか)の阿爺(おとっさん)の所へ行った時、そう云ったとさ」「よっぽど男ら
(单词翻译:双击或拖选)
「どこへ行って、そんな事を云ったんです」
宗近(むねちか)阿爺(おとっさん)の所へ行った時、そう云ったとさ」
「よっぽど男らしくない性質(たち)ですね。それより早く糸子(いとこ)さんでも(もら)ってしまったら好いでしょうに」
「全体貰う気があるのかね」
「兄さんの料簡(りょうけん)はとても分りませんわ。しかし糸子さんは兄さんの所へ来たがってるんですよ」
 母は鳴る鉄瓶(てつびん)(おろ)して、炭取を取り上げた。隙間(すきま)なく(しぶ)()れた劈痕焼(ひびやき)に、二筋三筋(あい)を流す波を(えが)いて、真白(ましろ)な桜を気ままに散らした、薩摩(さつま)急須(きゅうす)の中には、緑りを細く()り込んだ宇治(うじ)の葉が、(ひる)の湯に()やけたまま、ひたひたに重なり合うて冷えている。
「御茶でも入れようかね」
「いいえ」と藤尾は()く抜け出した(かおり)のなお余りあるを、急須と同じ色の茶碗のなかに畳み込む。黄な流れの底を(たた)くほどは、さほどとも思えぬが、(ふち)に近くようやく色を増して、濃き水は(あわ)(おもて)に片寄せて動かずなる。
 母は()()らしたる灰の盛り上りたるなかに、佐倉炭(さくらずみ)の白き残骸(なきがら)(まった)きを(こぼ)ちて、(しん)に潜む赤きものを片寄せる。(ぬく)もる穴の(くず)れたる中には、黒く輪切の正しきを(えら)んで、ぴちぴちと()ける。――室内の春光は()くまでも二人(ふたり)母子(ぼし)に穏かである。
 この作者は趣なき会話を嫌う。猜疑(さいぎ)不和の暗き世界に、一点の精彩を着せざる毒舌は、美しき筆に、心地よき春を紙に流す詩人の風流ではない。閑花素琴(かんかそきん)の春を(つかさ)どる人の歌めく(あめ)(した)に住まずして、半滴(はんてき)気韻(きいん)だに帯びざる野卑の言語を臚列(ろれつ)するとき、毫端(ごうたん)に泥を含んで双手に筆を(めぐ)らしがたき心地がする。宇治の茶と、薩摩の急須(きゅうす)と、佐倉の切り炭を(えが)くは瞬時の(かん)(ぬす)んで、一弾指頭(いちだんしとう)に脱離の安慰を読者に与うるの方便である。ただし地球は(むか)しより廻転する。明暗は昼夜を捨てぬ。(うれ)しからぬ親子の半面を最も簡短に叙するはこの作者の(せつ)なき義務である。茶を品し、炭を写したる筆は再び二人の対話に戻らねばならぬ。二人の対話は少なくとも前段より趣がなくてはならぬ。

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