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虞美人草 八 (6)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示: 同時に豊かな灯(ひ)が宗近家の座敷に点(とも)る。静かなる夜を陽に返す洋灯(ランプ)の笠に白き光りをゆかしく罩(こ)めて、唐草
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 同時に豊かな()が宗近家の座敷に(とも)る。静かなる夜を陽に返す洋灯(ランプ)の笠に白き光りをゆかしく()めて、唐草(からくさ)を一面に高く(たた)き出した白銅の油壺(あぶらつぼ)が晴がましくも(よい)に曇らぬ色を誇る。灯火(ともしび)の照らす限りは顔ごとに(にぎ)やかである。
「アハハハハ」と云う声がまず起る。この灯火(ともしび)周囲(まわり)に起るすべての談話はアハハハハをもって始まるを恰好(かっこう)と思う。
「それじゃ相輪(そうりんとう)も見ないだろう」と大きな声を出す。声の主は老人である。色の好い頬の肉が双方から垂れ余って、抑えられた(あご)はやむを得ず二重(ふたえ)に折れている。頭はだいぶ禿()げかかった。これを時々()でる。宗近の父は頭を撫で禿がしてしまった。
「相輪※(「木+棠」、第3水準1-86-14)た何ですか」と宗近君は阿爺(おやじ)の前で変則の胡坐(あぐら)をかいている。
「アハハハハそれじゃ叡山(えいざん)へ何しに登ったか分からない」
「そんなものは通り路に見当らなかったようだね、甲野(こうの)さん」
 甲野さんは茶碗を前に、くすんだ万筋の前を合して、黒い羽織の(えり)を正しく坐っている。甲野さんが問い()けられた時、な糸子の顔は(うご)いた。
「相輪※(「木+棠」、第3水準1-86-14)はなかったようだね」と甲野さんは手を(ひざ)の上に置いたままである。
「通り路にないって……まあどこから登ったか知らないが――吉田かい」
「甲野さん、あれは何と云う所かね。僕らの登ったのは」
「何と云う所か知ら」
阿爺(おとっさん)何でも一本橋を渡ったんですよ」
「一本橋を?」
「ええ、――一本橋を渡ったな、君、――もう少し行くと若狭(わかさ)の国へ出る所だそうです」
「そう早く若狭へ出るものか」と甲野さんはたちまち前言を取り消した。
「だって君が、そう云ったじゃないか」
「それは冗談(じょうだん)さ」
「アハハハハ若狭へ出ちゃ大変だ」と老人は大いに愉快そうである。糸子も丸顔に二重瞼(ふたえまぶた)の波を寄せた。

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