返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 夏目漱石 » 正文

虞美人草 九 (4)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示: 五年の間一日一夜(ひとひひとよ)も懐(ふところ)に忘られぬ命より明らかな夢の中なる小野さんはこんな人ではなかった。五年は昔
(单词翻译:双击或拖选)
 五年の間一日一夜(ひとひひとよ)(ふところ)に忘られぬ命より明らかな夢の中なる小野さんはこんな人ではなかった。五年は昔である。西東(にしひがし)長短の(たもと)を分かって、離愁(りしゅう)(とざ)暮雲(ぼうん)相思(そうし)(かん)()かれては、()う事の(うと)くなりまさるこの年月(としつき)を、変らぬとのみは思いも寄らぬ。風吹けば変る事と思い、雨降れば変る事と思い、月に花に変る事と思い暮らしていた。しかし、こうは変るまいと念じてプラットフォームへ下りた。
 小野さんの変りかたは過去を順当に延ばして、健気(けなげ)に生い立った阿蒙(あもう)の変りかたではない。色の()めた過去を(さか)()じ伏せて、目醒(めざま)しき現在を、相手が新橋へ着く前の晩に、性急に(こし)らえ上げたような変りかたである。小夜子には寄りつけぬ。手を延ばしても届きそうにない。変りたくても変られぬ自分が(うら)めしい気になる。小野さんは自分と遠ざかるために変ったと同然である。
 新橋へは(むかえ)に来てくれた。車を(やと)って宿へ案内してくれた。のみならず、忙がしいうちを無理に算段して、蝸牛(かたつむり)親子して寝る(いおり)を借りてくれた。小野さんは昔の通り親切である。父も左様(さよう)に云う。自分もそう思う。しかし寄りつけない。
 プラットフォームを下りるや否や御荷物をと云った。()さい手提(てさげ)の荷にはならず、持って貰うほどでもないのを無理に受取って、膝掛(ひざかけ)といっしょに先へ行った、(きざ)み足の(うし)ろ姿を見たときに――これはと思った。先へ行くのは、遥々(はるばる)と来た二人を案内するためではなく、時候(おく)れの親子を追い越して()け抜けるためのように見える。割符(わりふ)とは(うり)二つを取ってつけて(くら)べるための証拠(しるし)である。天に(かか)る日よりも(とうと)しと(まも)るわが夢を、五年(いつとせ)の長き香洩(かも)る「時」の袋から現在に引き出して、よも間違はあるまいと見較べて見ると、現在ははやくも遠くに立ち退()いている。握る割符は通用しない。
 始めは穴を出でて(まばゆ)き故と思う。少し()れたらばと、()く日を(つえ)に、一度逢い、二度逢い、三度四度と重なるたびに、小野さんはいよいよ丁寧になる。丁寧になるにつけて、小夜子はいよいよ近寄りがたくなる。
 やさしく咽喉(のど)()べり込む長い(あご)を奥へ引いて、上眼に小野さんの姿を(なが)めた小夜子は、変る眼鏡を見た。変る(ひげ)を見た。変る髪の(ふう)と変る(よそおい)とを見た。すべての変るものを見た時、心の底でそっと嘆息(ためいき)()いた。ああ。

轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

热门TAG:
[查看全部]  相关评论