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虞美人草 九 (6)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示:「あなたはあの時分と少しも違っていらっしゃいませんね」「そうでしょうか」と小夜子は相手を諾するような、自分を疑うような、
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「あなたはあの時分と少しも違っていらっしゃいませんね」
「そうでしょうか」と小夜子は相手を諾するような、自分を疑うような、気の乗らない返事をする。変っておりさえすればこんなに心配はしない。変るのは(とし)ばかりで、いたずらに育った縞柄(しまがら)と、用い古るした(こと)(うら)めしい。琴は(おい)のまま床の間に立て掛けてある。
「私はだいぶ変りましたろう」
「見違えるように立派に御成りです事」
「ハハハハそれは恐れ入りますね。まだこれからどしどし変るつもりです。ちょうど嵐山のように……」
 小夜子は何と答えていいか分らない。(ひざ)に手を置いたまま、下を向いている。小さい耳朶(みみたぶ)が、行儀よく、(びん)の末を(くぐ)り抜けて、(ほお)(くび)続目(つぎめ)が、(ぼか)したように曲線を陰に()いて去る。見事な()である。惜しい事に真向(まむき)(すわ)った小野さんには分からない。詩人は感覚美を好む。これほどの肉の上げ具合、これほどの肉の退()き具合、これほどの光線()に、これほどの色の付き具合は滅多(めった)に見られない。小野さんがこの瞬間にこの美しい画を捕えたなら、編み上げの(かかと)を、地に()り込むほどに(めぐ)らして、五年の流を逆に過去に向って飛びついたかも知れぬ。惜しい事に小野さんは真向(まむき)に坐っている。小野さんはただ面白味のない詩趣に乏しい女だと思った。同時に波を打って鼻の先に(ひるが)える(そで)()が、濃き(むらさき)眉間(みけん)(かす)めてぷんとする。小野さんは急に帰りたくなった。
「また来ましょう」と背広(せびろ)の胸を合せる。
「もう帰る時分ですから」と小さな声で引き留めようとする。
「また来ます。御帰りになったら、どうぞ(よろ)しく」
「あの……」と口籠(くちごも)っている。
 相手は腰を浮かしながら、あののあとを待ち兼ねる。早くと()き立てられる気がする。近寄れぬものはますます離れて行く。情ない。
「あの……父が……」
 小野さんは、何とも知れず重い気分になる。女はますます切り出し(にく)くなる。
「また上がります」と立ち上がる。云おうと思う事を聞いてもくれない。離れるものは没義道(もぎどう)に離れて行く。未練も会釈(えしゃく)もなく離れて行く。玄関から座敷に引き返した小夜子は惘然(もうぜん)として、(えん)に近く坐った。

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