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虞美人草 九 (10)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示:「変った?――ああ大変立派になったね。新橋で逢(あ)った時はまるで見違えるようだった。まあ御互に結構な事だ」 娘はまた下を
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「変った?――ああ大変立派になったね。新橋で()った時はまるで見違えるようだった。まあ御互に結構な事だ」
 娘はまた下を向いた。――単純な父には自分の云う意味が徹せぬと見える。
「私は昔の通りで、ちっとも変っていないそうです。……変っていないたって……」
 (あと)の句は鳴る糸の尾を素足に踏むごとく、孤堂先生の頭に響いた。
「変っていないたって?」と次を催促する。
「仕方がないわ」と小さな声で附ける。老人は首を傾けた。
「小野が何か云ったかい」
「いいえ別に……」
 同じ質問と同じ返事はまた繰返される。水車(みずぐるま)を踏めば廻るばかりである。いつまで踏んでも踏み切れるものではない。
「ハハハハくだらぬ事を気にしちゃいけない。春は気が(ふさ)ぐものでね。今日なぞは阿父(おとっさん)などにもよくない天気だ」
 気が(ふさ)ぐのは秋である。(もち)と知って、酒の(とが)だと云う。慰さめられる人は、馬鹿にされる人である。小夜子は黙っていた。
「ちっと(こと)()いちゃどうだい。気晴(きばらし)に」
 娘は浮かぬ顔を、愛嬌(あいきょう)に傾けて、床の間を見る。(じく)(むな)しく落ちて、いたずらに余る黒壁の端を、(たて)()って、欝金(うこん)(おい)が春を隠さず明らかである。
「まあ()しましょう」
「廃す? 廃すなら御廃し。――あの、小野はね。近頃忙がしいんだよ。近々(きんきん)博士論文を出すんだそうで……」
 小夜子は銀時計すらいらぬと思う。百の博士も今の(おの)れには無益である。
「だから落ちついていないんだよ。学問に()ると誰でもあんなものさ。あんまり心配しないがいい。なに(ゆっ)くりしたくっても、していられないんだから仕方がない。え? 何だって」
「あんなにね」
「うん」
「急いでね」
「ああ」
「御帰りに……」
「御帰りに――なった? ならないでも? 好さそうなものだって仕方がないよ。学問で夢中になってるんだから。――だから一日(いちんち)都合をして貰って、いっしょに博覧会でも見ようって云ってるんじゃないか。御前話したかい」
「いいえ」
「話さない? 話せばいいのに。いったい小野が来たと云うのに何をしていたんだ。いくら女だって、少しは口を()かなくっちゃいけない」
 口を利けぬように育てて置いてなぜ口を利かぬと云う。小夜子はすべての非を負わねばならぬ。眼の中が熱くなる。
「なに好いよ。阿父(おとっさん)が手紙で聞き合せるから――悲しがる事はない。叱ったんじゃない。――時に晩の御飯はあるかい」
「御飯だけはあります」
「御飯だけあればいい、なに御菜(おさい)はいらないよ。――頼んで置いた婆さんは明日(あした)くるそうだ。――もう少し慣れると、東京だって京都だって同じ事だ」
 小夜子は勝手へ立った。孤堂先生は床の間の風呂敷包を解き始める。

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