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虞美人草 十 (2)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示:「いや。だいぶ御暖(おあったか)になりました。さあどうぞ」と布団の方へ大きな掌(てのひら)を出す。女はわざと入口に坐ったまま
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「いや。だいぶ御暖(おあったか)になりました。さあどうぞ」と布団の方へ大きな(てのひら)を出す。女はわざと入口に坐ったまま両手を尋常につかえる。
「その(のち)は……」
「どうぞ御敷き……」と大きな手はやっぱり前へ突き出したままである。
「ちょっと出ますんでございますが、つい無人(ぶにん)だもので、出よう出ようと思いながら、とうとう御無沙汰(ごぶさた)になりまして……」で少し句が切れたから大和尚が何か云おうとすると、謎の女はすぐ(あと)をつける。
「まことに相済みません」で黒い頭をぴたりと畳へつけた。
「いえ、どう致しまして……」ぐらいでは容易に頭を上げる女ではない。ある人が云う。あまりしとやかに礼をする女は気味がわるい。またある人が云う。あまり丁寧に御辞儀をする女は迷惑だ。第三の人が云う。人間の誠は下げる頭の時間と正比例するものだ。いろいろな説がある。ただし大和尚は迷惑党である。
 黒い頭は畳の上に、声だけは口から出て来る。
「御宅でも皆様御変りもなく……毎々欽吾(きんご)藤尾(ふじお)が出まして、御厄介(ごやっかい)にばかりなりまして……せんだってはまた結構なものをちょうだい致しまして、とうに御礼に上がらなければならないんでございますが、つい手前にかまけまして……」
 頭はここでようやく上がる。阿父(おとっさん)はほっと気息(いき)つく。
「いや、詰らんもので……到来物でね。アハハハハようやく(あった)かになって」と突然時候をつけて庭の方を見たが
「どうです御宅の桜は。今頃はちょうど(さかり)でしょう」で結んでしまった。
「本年は陽気のせいか、例年より少し早目で、四五日(ぜん)がちょうど観頃(みごろ)でございましたが、一昨日(いっさくじつ)の風で、だいぶ(いた)められまして、もう……」
「駄目ですか。あの桜は珍らしい。何とか云いましたね。え? 浅葱桜(あさぎざくら)。そうそう。あの色が珍らしい」
「少し青味を帯びて、何だか、こう、夕方などは(すご)いような心持が致します」
「そうですか、アハハハハ。荒川(あらかわ)には緋桜(ひざくら)と云うのがあるが、浅葱桜(あさぎざくら)は珍らしい」
「みなさんがそうおっしゃいます。八重はたくさんあるが青いのは滅多にあるまいってね……」
「ないですよ。もっとも桜も好事家(こうずか)に云わせると百幾種とかあるそうだから……」
「へええ、まあ」と女はさも驚ろいたように云う。


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