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虞美人草 十 (4)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示:「せんだって家(うち)へ見えた時などは皆(みんな)と馬鹿話をして、だいぶ愉快そうでしたが」「へええ」これは仔細(しさい)らしく
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「せんだって(うち)へ見えた時などは(みんな)と馬鹿話をして、だいぶ愉快そうでしたが」
「へええ」これは仔細(しさい)らしく感心する。「まことに困り切ります」これは困り切ったように長々と引き延ばして云う。
「そりゃ、どうも」
彼人(あれ)の病気では、今までどのくらい心配したか分りません」
「いっそ結婚でもさせたら気が変って好いかも知れませんよ」
 (なぞ)の女は自分の思う事を(ひと)に云わせる。手を(くだ)しては落度になる。向うで(すべ)って転ぶのをおとなしく待っている。ただ滑るような泥海(ぬかるみ)を知らぬ()に用意するばかりである。
「その結婚の事を朝暮(あけくれ)申すのでございますが――どう()っても、うんと云って承知してくれません。私も御覧の通り取る年でございますし、それに甲野もあんな風に突然外国で()くなりますような仕儀で、まことに心配でなりませんから、どうか一日(いちじつ)も早く彼人のために身の落つきをつけてやりたいと思いまして……本当に、今まで嫁の事を持ち出した事は何度だか分りません。が持ち出すたんびに頭から()ねつけられるのみで……」
「実はこの間見えた時も、ちょっとその話をしたんですがね。君がいつまでも強情を張ると心配するのは阿母(おっかさん)だけで、可愛想だから、今のうちに早く身を堅めて安心させたら善かろうってね」
「御親切にどうもありがとう存じます」
「いえ、心配は御互で、こっちもちょうどどうかしなければならないのを二人背負(しょ)い込んでるものだから、アハハハハどうも何ですね。何歳(いくつ)になっても心配は絶えませんね」
此方(こちら)様などは結構でいらっしゃいますが、私は――もし彼人がいつまでも病気だ病気だと申して嫁を貰ってくれませんうちに、もしもの事があったら、草葉の陰で配偶(つれあい)に合わす顔がございません。まあどうして、あんなに聞き訳がないんでございましょう。何か云い出すと、阿母(おっかさん)(わたし)はこんな身体(からだ)で、とても家の面倒は見て行かれないから、藤尾に(むこ)を貰って、阿母(おっか)さんの世話をさせて下さい。私は財産なんか一銭も入らない。と、まあこうでござんすもの。私が本当の親なら、それじゃ御前の勝手におしと申す事も出来ますが、御存じの通りなさぬ中の間柄でございますから、そんな不義理な事は人様に対しても出来かねますし、じつに途方に暮れます」
 謎の女は和尚(おしょう)をじっと見た。和尚は大きな腹を出したまま考えている。灰吹がぽんと鳴る。紫檀(したん)(ふた)を丁寧に(かぶ)せる。煙管(きせる)は転がった。
「なるほど」
 和尚の声は例に似ず沈んでいる。

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