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虞美人草 十 (5)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示:「そうかと申して生(うみ)の母でない私が圧制がましく、むやみに差出た口を利(き)きますと、御聞かせ申したくないようなごたごた
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「そうかと申して(うみ)の母でない私が圧制がましく、むやみに差出た口を()きますと、御聞かせ申したくないようなごたごたも起りましょうし……」
「ふん、困るね」
 和尚は手提(てさげ)の煙草盆の浅い抽出(ひきだし)から欝金木綿(うこんもめん)布巾(ふきん)を取り出して、(くじら)(つる)鄭重(ていちょう)に拭き出した。
「いっそ、私からとくと談じて見ましょうか。あなたが云い(にく)ければ」
「いろいろ御心配を掛けまして……」
「そうして見るかね」
「どんなものでございましょう。ああ云う神経が妙になっているところへ、そんな事を聞かせましたら」
「なにそりゃ、承知しているから、当人の気に(さわ)らないように云うつもりですがね」
「でも、万一私がこなたへ出てわざわざ御願い申したように取られると、それこそ(あと)が大変な騒ぎになりますから……」
「弱るね、そう、(かん)が高くなってちゃあ」
「まるで腫物(はれもの)(さわ)るようで……」
「ふうん」と和尚(おしょう)は腕組を始めた。(ゆき)が短かいので太い(ひじ)無作法(ぶさほう)に見える。
 (なぞ)の女は人を迷宮に導いて、なるほどと云わせる。ふうんと云わせる。灰吹をぽんと云わせる。しまいには腕組をさせる。二十世紀の禁物は疾言(しつげん)遽色(きょしょく)である。なぜかと、ある紳士、ある淑女に尋ねて見たら、紳士も淑女も口を(そろ)えて答えた。――疾言と遽色は、もっとも法律に触れやすいからである。――謎の女の鄭重(ていちょう)なのはもっとも法律に触れ悪い。和尚は腕組をしてふうんと云った。
「もし彼人(あれ)が断然(うち)を出ると云い張りますと――私がそれを見て無論黙っている訳には参りませんが――しかし当人がどうしても聞いてくれないとすると……」
(むこ)かね。聟となると……」
「いえ、そうなっては大変でございますが――万一の場合も考えて置かないと、いざと云う時に困りますから」
「そりゃ、そう」
「それを考えると、あれが病気でもよくなって、もう少ししっかりしてくれないうちは、藤尾を片づける訳に参りません」

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