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虞美人草 十 (7)

时间: 2021-04-10    进入日语论坛
核心提示:「アハハハそう心配しちゃ際限がありませんよ。藤尾さんさえ嫁に行ってしまえば欽吾さんにも責任が出る訳だから、自然と考もちが
(单词翻译:双击或拖选)
「アハハハそう心配しちゃ際限がありませんよ。藤尾さんさえ嫁に行ってしまえば欽吾さんにも責任が出る訳だから、自然と考もちがってくるにきまっている。そうなさい」
「そう云うものでございましょうかね」
「それに御承知の通、阿父(おとっさん)がいつぞやおっしゃった事もあるし。そうなれば()くなった人も満足だろう」
「いろいろ御親切にありがとう存じます。なに配偶(つれあい)さえ生きておりますれば、一人で――こん――こんな心配は致さなくっても(よろ)しい――のでございますが」
 謎の女の云う事はしだいに湿気(しっけ)を帯びて来る。世に疲れたる筆はこの湿気を嫌う。(かろ)うじて謎の女の謎をここまで叙し(きた)った時、筆は、一歩も前へ進む事が(いや)だと云う。日を作り夜を作り、海と(おか)とすべてを作りたる神は、日目に至って休めと言った。謎の女を書きこなしたる筆は、日のあたる別世界に入ってこの湿気を払わねばならぬ。
 日のあたる別世界には二人の兄妹(きょうだい)が活動する。六畳の中二階(ちゅうにかい)の、南を受けて明るきを足れりとせず、小気味よく開け放ちたる障子の外には、二尺の松が信楽(しがらき)(はち)に、(わだか)まる根を盛りあげて、くの字の影を(えん)に伏せる。一間(いっけん)唐紙(からかみ)は白地に秦漢瓦鐺(しんかんがとう)の譜を散らしに張って、引手には波に千鳥が飛んでいる。つづく三尺の仮の(とこ)は、軸を嫌って、籠花活(かごはないけ)に軽い一輪をざっくばらんに投げ込んだ。
 糸子は床の間に縫物の五色を、(あや)と乱して、糸屑(いとくず)のこぼるるほどの抽出(ひきだし)を二つまであらわに抜いた針箱を窓近くに添える。縫うて行く糸の行方(ゆくえ)は、一針ごとに春を(きざ)(かす)かな音に、聴かれるほどの静かさを、兄は大きな声で消してしまう。
 腹這(はらばい)弥生(やよい)の姿、寝ながらにして天下の春を領す。物指(ものさし)の先でしきりに敷居を(たた)いている。
「糸公。こりゃ御前の座敷の方が明かるくって上等だね」
「替えたげましょうか」
「そうさ。替えて貰ったところで(あんま)(もう)かりそうでもないが――しかし御前には上等過ぎるよ」
「上等過ぎたって誰も使わないんだから好いじゃありませんか」
「好いよ。好い事は好いが少し上等過ぎるよ。それにこの装飾物がどうも――妙齢の女子には似合わしからんものがあるじゃないか」
「何が?」

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