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虞美人草 十一 (3)

时间: 2021-04-16    进入日语论坛
核心提示:「夜見ると」甲野さんがすぐ但書(ただしがき)を附け加えた。「ねえ、糸公、まるで竜宮のようだろう」「本当に竜宮ね」「藤尾さん
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「夜見ると」甲野さんがすぐ但書(ただしがき)を附け加えた。
「ねえ、糸公、まるで竜宮のようだろう」
「本当に竜宮ね」
「藤尾さん、どう思う」と宗近君はどこまでも竜宮が得意である。
「俗じゃありませんか」
「何が、あの建物がかね」
「あなたの形容がですよ」
「ハハハハ甲野さん、竜宮は俗だと云う御意見だ。俗でも竜宮じゃないか」
「形容は(うま)(あた)ると俗になるのが通例だ」
(あた)ると俗なら、中らなければ何になるんだ」
「詩になるでしょう」と藤尾が横合から答えた。
「だから、詩は実際に(はず)れる」と甲野さんが云う。
「実際より高いから」と藤尾が註釈する。
「すると(うま)く中った形容が俗で、旨く中らなかった形容が詩なんだね。藤尾さん無味(まず)くって中らない形容を云って御覧」
「云って見ましょうか。――兄さんが知ってるでしょう。()いて御覧なさい」と藤尾は鋭どい眼の(かど)から欽吾(きんご)を見た。眼の角は云う。――無味くって中らない形容は哲学である。
「あの横にあるのは何」と糸子が無邪気(むじゃき)に聞く。
 の線を(やみ)に渡して空を横に切るは屋根である。(たて)に切るは柱である。斜めに切るは(いらか)である。(おぼろ)の奥に星を(うず)めて、限りなき夜を薄黒く地ならししたる上に、稲妻(いなずま)の穂は一を引いて虚空を走った。二を引いて上から落ちて来た。(まんじ)(えが)いて花火のごとく地に近く廻転した。最後に穂先を逆に返して帝座(ていざ)の真中を貫けとばかり()げ上げた。かくして塔は(むね)に入り、棟は(とこ)(つら)なって、不忍(しのばず)(いけ)の、此方(こなた)から見渡す(むこう)を、右から左へ隙間(すきま)なく埋めて、大いなる火の絵図面が出来た。
 (あい)を含む黒塗に、金を惜まぬ高蒔絵(たかまきえ)は堂を描き、楼を描き、廻廊を描き、曲欄(きょくらん)を描き、円塔方柱(えんとうほうちゅう)の数々を描き尽して、なお余りあるを是非に用い切らんために、描ける上を往きつ戻りつする。縦横に(くう)を走るの線は一点一劃を乱すことなく整然として一点一劃のうちに活きている。動いている。しかも明かに動いて、動く限りは形を(くず)気色(けしき)が見えぬ。

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