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虞美人草 十五 (3)

时间: 2021-05-05    进入日语论坛
核心提示: やがて、かたりと書物を置き易(か)える音がする。甲野さんは手垢(てあか)の着いた、例の日記帳を取り出して、誌(つ)け始める。
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 やがて、かたりと書物を置き()える音がする。甲野さんは手垢(てあか)の着いた、例の日記帳を取り出して、()け始める。
「多くの人は(われ)に対して悪を施さんと欲す。同時に吾の、彼らを目して凶徒となすを許さず。またその凶暴に抗するを許さず。(いわ)く。命に服せざれば汝を(にく)まんと」
 細字(さいじ)に書き終った甲野さんは、その(あと)片仮名(かたかな)でレオパルジと入れた。日記を右に片寄せる。置き易えた書物を再び(もと)の座に直して、静かに読み始める。細い青貝の軸を着けた洋筆(ペン)がころころと机を(すべ)って(ゆか)に落ちた。ぽたりと黒いものが足の下に出来る。甲野さんは両手を机の(かど)に突張って、心持腰を(うしろ)へ浮かしたが、眼を落してまず黒いしたたりを眺めた。丸い輪に墨が余ってぱっと四方に飛んでいる。青貝は寝返りを打って、薄暗いなかに冷たそうな長い光を放つ。甲野さんは椅子をずらす。手捜(てさぐり)に取り上げた洋筆軸(ペンじく)は父が西洋から買って来てくれた昔土産(むかしみやげ)である。
 甲野さんは、指先に軸を(つま)んだ手を裏返して、拾った物を、指の谷から滑らして(てのひら)のなかに落し込む。掌の(むき)を上下に()えると、長い軸は、ころころと前へ行き(うし)ろへ戻る。動くたびにきらきら光る。小さい記念(かたみ)である。
 洋筆軸を転がしながら、書物の続きを読む。(ページ)をはぐるとこんな事が、かいてある。
「剣客の剣を舞わすに、力相若(あいし)くときは剣術は無術と同じ。彼、これを一籌(いっちゅう)の末に制する事(あた)わざれば、学ばざるものの相対して敵となるに等しければなり。人を(あざむ)くもまたこれに類す。欺かるるもの、欺くものと一様の譎詐(きっさ)に富むとき、二人(ににん)の位地は、誠実をもって相対すると(ごう)も異なるところなきに至る。この故にとは優勢を引いて援護となすにあらざるよりは、不足偽(ふそくぎ)不足悪に出会(しゅっかい)するにあらざるよりは、最後に、至善を敵とするにあらざるよりは、――効果を収むる事(かた)しとす。第三の場合は(もと)より(まれ)なり。第二もまた多からず。凶漢は敗徳において匹敵(ひってき)するをもって常態とすればなり。人相賊(あいぞく)してついに達する(あた)わず、あるいは千辛万苦して始めて達し得べきものも、ただ互に善を行い徳を施こして容易に(いた)り得べきを思えば、悲しむべし」


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