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虞美人草 十五 (9)

时间: 2021-05-05    进入日语论坛
核心提示:「だって、彼(あの)男に及第が出来ますものかね。考えて御覧な。――もし及第なすったら藤尾を差上(さしあげ)ましょうと約束した
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「だって、(あの)男に及第が出来ますものかね。考えて御覧な。――もし及第なすったら藤尾を差上(さしあげ)ましょうと約束したって大丈夫だよ」
「そう云ったの」
「そうは云わないさ。そうは云わないが、云っても大丈夫、及第出来っ子ない男だあね」
 藤尾は笑ながら、首を傾けた。やがてすっきと姿勢を正して、話を切り上げながら云う。
「じゃ宗近の御叔父(おじさん)はたしかに断わられたと思ってるんですね」
「思ってるはずだがね。――どうだい、あれから一の様子は、少しは変ったかい」
「やっぱり(おんな)じですからさ。この間博覧会へ行ったときも相変らずですもの」
「博覧会へ行ったのは、いつだったかね」
「今日で」と考える。「一昨日(おととい)一昨々日(さきおととい)の晩です」と云う。
「そんなら、もう一に通じている時分だが。――もっとも宗近の御叔父がああ云う人だから、ことに依ると(なぞ)が通じなかったかも知れないね」とさも歯痒(はがゆ)そうである。
「それとも一さんの事だから、御叔父から聞いても平気でいるのかも知れないわね」
「そうさ。どっちがどっちとも云えないね。じゃ、こうしよう。ともかくも欽吾に話してしまおう。――こっちで黙っていちゃ、いつまで立っても際限がない」
「今、書斎にいるでしょう」
 母は立ち上がった。椽側(えんがわ)へ出た足を一歩(ひとあし)(あと)へ返して、小声に
「御前、一に()うだろう」と(こごみ)ながら云う。
「逢うかも知れません」
「逢ったら少し匂わして置く方が好いよ。小野さんと大森へ行くとか云っていたじゃないか。明日(あした)だったかね」
「ええ、明日の約束です」
「何なら二人で遊んで歩くところでも見せてやると好い」
「ホホホホ」
 母は書斎に向う。
 からりとした(えん)を通り越して、奇麗な木理(もくめ)を一面に()ぎ出してある西洋間の戸を半分明けると、立て切った中は暗い。円鈕(ノッブ)を前に押しながら、開く戸に身を任せて、音なき両足を寄木(よせき)(ゆか)に落した時、釘舌(ボールト)のかちゃりと()ね返る音がする。窓掛に春(さえ)ぎる書斎は、薄暗く二人を、人の世から仕切った。
「暗い事」と云いながら、母は真中の洋卓(テエブル)まで来て立ち留まる。椅子(いす)の背の上に首だけ見えた欽吾の後姿が、声のした方へ、じいっと廻り込むと、なぞえに引いた眉の切れが三が一ほどあらわれた。黒い片髭(かたひげ)が上唇を沿うて、自然(じねん)と下りて来て、尽んとする(かど)から、急に()き返す。口は結んでいる。同時に黒い(ひとみ)は眼尻まで()って来た。母と子はこの姿勢のうちに互を認識した。
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