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虞美人草 十五 (13)

时间: 2021-05-05    进入日语论坛
核心提示:「身体(からだ)が悪いと御云いだけれども、御前くらいの身体で御嫁を取った人はいくらでもあります」「そりゃ、有るでしょう」「
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身体(からだ)が悪いと御云いだけれども、御前くらいの身体で御嫁を取った人はいくらでもあります」
「そりゃ、有るでしょう」
「だからさ。御前も、もう一遍考え直して御覧な。中には御嫁を貰って大変丈夫になった人もあるくらいだよ」
 甲野さんの手はこの時始めて額を離れた。洋卓(テエブル)の上には一枚の罫紙(けいし)に鉛筆が添えて()せてある。何気なく罫紙を取り上げて裏を返して見ると三四行の英語が書いてある。読み掛けて気がついた。昨日(きのう)読んだ書物の中から備忘のため抄録して、そのままに捨てて置いた紙片(かみきれ)である。甲野さんは罫紙を洋卓の上に伏せた。
 母は額の裏側だけに八の字を寄せて、甲野さんの返事をおとなしく待っている。甲野さんは鉛筆を()って紙の上へ烏と云う字を書いた。
「どうだろうね」
 烏と云う字が鳥になった。
「そうしてくれると好いがね」
 鳥と云う字が(げき)の字になった。その下に舌の字が付いた。そうして顔を上げた。云う。
「まあ藤尾の方からきめたら好いでしょう」
「御前が、どうしても承知してくれなければ、そうするよりほかに道はあるまい」
 云い終った母は悄然(しょうぜん)として下を向いた。同時に(せがれ)の紙の上に三角が出来た。三角が三つ重なって(うろこ)の紋になる。
(おっ)かさん。(うち)は藤尾にやりますよ」
「それじゃ御前……」と()(けし)にかかる。
「財産も藤尾にやります。(わたし)は何にもいらない」
「それじゃ私達が困るばかりだあね」
「困りますか」と落ちついて云った。母子(おやこ)はちょっと眼を見合せる。
「困りますかって。――私が、死んだ阿父(おとっ)さんに済まないじゃないか」
「そうですか。じゃどうすれば好いんです」と飴色(あめいろ)に塗った鉛筆を洋卓の上にはたりと(ほう)り出した。

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