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虞美人草 十六 (10)

时间: 2021-05-05    进入日语论坛
核心提示:「当てて御覧なさい」「当てて見ないだって区役所へ行きゃ、すぐ分る事だが、ちょいと参考のために聞いて見るんだよ。隠さずに云
(单词翻译:双击或拖选)
「当てて御覧なさい」
「当てて見ないだって区役所へ行きゃ、すぐ分る事だが、ちょいと参考のために聞いて見るんだよ。隠さずに云う方が御前の利益だ」
「隠さずに云う方がだって――何だか悪い事でもしたようね。(わたし)(いや)だわ、そんなに強迫されて云うのは」
「ハハハハさすが哲学者の御弟子だけあって、容易に権威に服従しないところが感心だ。じゃ改めて伺うが、取って御幾歳(おいくつ)ですか」
「そんな茶化(ちゃか)したって、誰が云うもんですか」
「困ったな。叮嚀(ていねい)に云えば云うで怒るし。――一だったかね。二かい」
「おおかたそんなところでしょう」
「判然しないのか。自分の年が判然しないようじゃ、兄さんも少々心細いな。とにかく十代じゃないね」
「余計な御世話じゃありませんか。人の年齢(とし)なんぞ聞いて。――それを聞いて何になさるの」
「なに別の用でもないが、実は糸公を御嫁にやろうと思ってさ」
 冗談半分に相手になって、調戯(からかわ)れていた妹の様子は突然と変った。熱い石を氷の上に置くと見る見る()めて来る。糸子は一度に元気を放散した。同時に陽気な眼を陰に()せて、畳みの目を勘定(かんじょう)し出した。
「どうだい、御嫁は。(いや)でもないだろう」
「知らないわ」と低い声で云う。やっぱり下を向いたままである。
「知らなくっちゃ困るね。兄さんが行くんじゃない、御前が行くんだ」
「行くって云いもしないのに」
「じゃ行かないのか」
 糸子は(かぶり)(たて)に振った。
「行かない? 本当に」
 答はなかった。今度は首さえ動かさない。
「行かないとなると、兄さんが切腹しなけりゃならない。大変だ」
 俯向(うつむ)いた眼の色は見えぬ。ただ(ゆたか)なる頬を(かす)めて笑の影が飛び去った。
「笑い事じゃない。本当に腹を切るよ。好いかね」
「勝手に御切んなさい」と突然顔を上げた。にこにこと笑う。
「切るのは好いが、あんまり深刻だからね。なろう事ならこのまんまで生きている方が、御互に便利じゃないか。御前だってたった一人の兄さんに腹を切らしたって、つまらないだろう」

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