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虞美人草 十六 (14)

时间: 2021-05-05    进入日语论坛
核心提示:「じゃ兄さんが藤尾さんを貰うために、欽吾さんを留めようと云うんですね」「まあ一面から云えばそうなるさ」「それじゃ欽吾さん
(单词翻译:双击或拖选)
「じゃ兄さんが藤尾さんを貰うために、欽吾さんを留めようと云うんですね」
「まあ一面から云えばそうなるさ」
「それじゃ欽吾さんより兄さんの方がわがままじゃありませんか」
「今度は非常に論理的(ロジカル)に来たね。だってつまらんじゃないか、当然相続している財産を捨てて」
「だって(いや)なら仕方がないわ」
「厭だなんて云うのは神経衰弱のせいだあね」
「神経衰弱じゃありませんよ」
「病的に違ないじゃないか」
「病気じゃありません」
「糸公、今日は例に似ず大いに断々乎(だんだんこ)としているね」
「だって欽吾さんは、ああ云う方なんですもの。それを(みんな)が病気にするのは、皆の方が間違っているんです」
「しかし健全じゃないよ。そんな動議を呈出するのは」
「自分のものを自分が()てるんでしょう」
「そりゃごもっともだがね……」
()ないから棄てるんでしょう」
「要らないって……」
「本当に要らないんですよ、甲野さんのは。負惜(まけおし)みや面当(つらあて)じゃありません」
「糸公、御前は甲野の知己(ちき)だよ。兄さん以上の知己だ。それほど信仰しているとは思わなかった」
「知己でも知己でなくっても、本当のところを云うんです。正しい事を云うんです。叔母さんや藤尾さんがそうでないと云うんなら、叔母さんや藤尾さんの方が間違ってるんです。私は嘘を()くのは大嫌(だいきらい)です」
「感心だ。学問がなくっても誠から出た自信があるから感心だ。兄さん大賛成だ。それでね、糸公、改めて相談するが甲野が(うち)を出ても出なくっても、財産をやってもやらなくっても、御前甲野のところへ嫁に行く気はあるかい」
「それは話がまるで違いますわ。今云ったのはただ正直なところを云っただけですもの。欽吾さんに御気の毒だから云ったんです」
「よろしい。なかなか訳が分っている。妹ながら見上げたもんだ。だから別問題として聞くんだよ。どうだね(いや)かい」
「厭だって……」とと言い()けて糸子は急に俯向(うつむ)いた。しばらくは半襟(はんえり)の模様を見詰めているように見えた。やがて(しばたた)(まつげ)(から)んで一雫(ひとしずく)の涙がぽたりと(ひざ)の上に落ちた。

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