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赤い婚礼 5_小泉八云_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网

时间: 2024-10-24    作者: destoon    进入日语论坛
核心提示:5 太郎がお芳と話しているのを見かけた老農夫は実は店に客として来ていたのではなかった。彼は実際の稼業の他に仲人や縁結びも
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 太郎がお芳と話しているのを見かけた老農夫は実は店に客として来ていたのではなかった。彼は実際の稼業の他に仲人や縁結びもしている。あの時は岡崎弥一郎という金持ちの問屋のためにそうしていた。岡崎はお芳を見かけたとき見初めて、この媒酌人に娘とその家族の身上や事情をできるだけ調べてほしいと頼んでいたのだった。
 岡崎なる人物は、農民たちからもまた村の中の近所の者たちからもひどく嫌われていた。彼は、年も取って太った、また人相も悪くて声が大きい、横柄な態度の男であった。悪党だと言われている。彼は飢饉の折に米相場に投機して大儲けしたが、それは農民らにすれば決して許すことのできない犯罪行為であった。彼はこの県の生まれではなく、またここの農民と何らかの縁があるというのでもない。一八年前に、西国のある地方から妻と一人の子を連れてこの村へやって来たのである。彼の妻は二年前に死に、ただ一人の子も岡崎が虐待したので突然に家を出て行って、その行方は知れない。彼にはほかにも芳しくない話がいくつかある。一つは、生まれた西国の地方で、一揆の暴徒に襲撃されてその家と蔵とを打ち壊わされたので、命からがら逃げ出してきた。もう一つは、彼の婚礼の晩に、地蔵尊の饗応をするように強いられたというものである。
 いくつかの地方では、あまり人望のない農夫の婚礼では花婿に地蔵尊の饗応もてなしをさせるという風習がある。屈強な若者たちの集団が道端や近隣の墓場から借りてきた石の地蔵を家の中に担ぎ込むと、その後をたくさんの群衆が付いて行く。座敷に地蔵を置くとたくさんの酒と御馳走を一度に要求するのである。もちろんこれは、それ自体大きなもてなしであり、拒めばたいへん危険なことになる。あらゆる招かざる客たちがもうこれ以上は飲み食いできないというまで饗応する必要がある。このようなもてなしをさせられること自体、公然の誅罰でありかつまた公然の辱めでもあった。
 岡崎は老齢なのだが、若くて美しい妻を得たいと身の程知らずな望みを持っている。
彼の富をもってしても、その望みを満足させるのは思ったほど容易ではなかった。何軒かの家が不可能な条件を持ち出して彼の申込みは断られていた。村長は、やや乱暴に、自分の娘を彼にやるくらいなら鬼にやる方がまだましだと言い捨てた。このような幾多の失敗の後で、この米問屋はおそらく他の地方で探すより他はないとあきらめかけていたが、たまたまお芳を見かけたのである。この娘をことのほか気に入っている。彼は、娘の家は貧しそうだから少しばかり金を渡せば娘を手に入れられると踏んでいる。そこで媒酌人を通じて宮原の家と交渉しようとしていたのである。
 お芳の継母のぁ】マは農家の出で、まったく教育もなかったが、したたかな女である。彼女は義理の娘を決して愛しはしなかったが、利口だったので訳もなくお芳につらく当たるようなこともなかった。その上、お芳の方も、素直で優しい性格をしており、家にはとても役に立っている。しかし、お芳の美点を理解する同じ容赦ない抜け目なさは、この乙女の婚姻市場での価値を値踏みするのである。問屋の岡崎は狡猾さでは自分の上を行くような者とまさか取引することになるとは思ってもみなかった。ぁ】マは岡崎の過去をかなりよく知っていた。また、その裕福さも知っている。また村の内外から妻を娶ろうとして画策してうまく行かなかったことも承知していた。彼女はお芳の美貌が老人の恋情を本当にかき立てているのではないかとも思っていたし、たいていの場合老人の恋には有利につけ込むことができることも判っている。お芳はとびきりの美人というほどではなかったが、あらゆる点で本当に可愛らしく、品のある娘である。岡崎が彼女ほどの娘を得ようとするなら遠方まで探し求めなければならないだろう。そのような娘を手に入れる特権のための支払を渋るのなら、ぁ】マは他に気前がよく躊躇しない若い男たちを何人か知っている。岡崎にお芳をやるとしても、それはおいそれと簡単な条件では済まないはずであった。岡崎の最初の申込みを断ると彼は本性を露わしてくるに違いない。彼がほんとうに惚れているならば、この辺りの他の者ならば工面できないほどのかなりの結納金を要求したとしても用意するであろう。そのためには、彼のご執心の強さを確実に知ること、それに当分の間はこれらのことをお芳本人には黙っておくことがとても重要となる。媒酌人の評判は職業柄黙っておくことにあるから、そこから秘密が漏れる心配はなかった。
 宮原家の方針はお芳の父親と継母との相談で決められている。父親はたいてい妻の計画に反対はしない。けれども、妻の方はまず夫を説得しようとした。まず、この結婚が多くの点で彼の娘の利益ためになると言う。結婚によって金銭的にも有利になると話した。本当は喜ばしくないリスクもあるけれども、相手の岡崎に一定の事前の解決に合意させておけば対処できると説いた。それから、ぁ】マは夫にどう振る舞うべきかを教えた。この交渉の一方では、太郎がお芳を訪ねてくることは歓迎された。二人の互いの結びつきはたんなるクモの巣のようなものであり、必要とあらばすぐにでも取り払われるようなものにすぎないからである。岡崎がさもありなんという若い恋敵のことを聞きつければ、急いでこちらの思い通りの結論を出すだろう。
 こんな理由から、太郎の父親がはじめて息子のためにお芳を嫁にと申入れたとき、この申込みが受け入れられも、また断りもされなかったのである。ただ、一つ出された反対は、お芳が太郎よりも一歳年上であるということだった。そんな縁組みは慣習に反している――これは本当のこと――というのである。けれども、この反対は弱いものだし、表向きさして重要でもない理由から選ばれたものであった。
 同じ頃、岡崎からの最初の申込みは、その誠意がまず疑わしいという印象であしらわれた。宮原家は媒酌人の言うことに貸す耳をもたない。彼らはこの仲介人のもっとも分りやすい請合いすらてんで相手にしないという態度をとった。そこで岡崎は自ら魅力的な申し出だと考えるものを提案した方が得策だと気がついた。宮原の亭主は、この件は女房に任せているので、その決定に従う旨を約束した。
 ぁ】マは、いかにも軽蔑して驚いたというような表情をして、この申込みをすぐに断ることに決めている。彼女は面白くないことを言った。その昔、ある男が美しい花嫁をとても安く貰いたいと思っていた。やっと男は美しい女性を見つけると、女性は私は一日二粒の米しか食べませんと言った。それで結婚したが、やはり毎日、二粒の米を口にするだけだった。彼は幸せだった。しかし、ある晩、旅から帰って天窓からそっと覗くと、妻が驚くほど食べていた――飯と魚を山のように貪り食べており、また髪で隠れた頭の中の穴へあらん限りの食べものを詰め込んでいるのを見た。それで、男は自分が結婚した女が山姥だったことが分かった。
 ぁ】マは、先に断ったことの結果を一と月ばかり――じっと待った。欲しいと願ったものの価値は、それを手に入れることが難しくなればなるほど、いかに増大していくかをよく知っている。そして、彼女が予測したようについに再び媒酌人がやって来た。問屋の側は今度は以前よりも丁寧に対応する。最初の申込みに上積みして進んで魅力的な約束を提案してきている。これでぁ】マはすっかり岡崎を手中に収めることができると思った。ぁ】マの作戦は複雑なものではないが、それは人間の性質の醜い面を本能的に知った上で立てられた計画である。彼女は自分の勝ちを確信した。約束は愚かな者のためにある。条件の付いた法的な契約は単純な者の落とし穴となる。岡崎はお芳を手に入れる前にその財産のうちの少なからざる部分を譲り渡すことになった。
 
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