祐子内親王、藤壺に住み侍りけるに、女房上人などさるべきかぎり、物語して、春秋のあはれいづれにか心引くなど争ひ侍りけるに、人々多く秋に心を寄せ侍りければ
56 あさみどり花もひとつに霞みつつおぼろに見ゆる春の夜の月
菅原孝標女
【通釈】
56 浅緑色の霞と花も一つになって霞んでおぼろに見える春の夜の月、わたしはその風情に心惹かれます。○祐子内親王 後朱雀天皇の皇女。長治二年(一一〇五)没、六十八歳。○藤壺 内裏五舎の一、飛香(ひぎょう)舎。○さるべきかぎり しかるべき人々皆が。○春秋のあはれ 春秋の情趣。○あさみどり 霞の色としていう。「浅緑野辺の霞はつつめどもこぼれてにほふ花桜かな」(拾遺·春·読人しらず)。▽更級日記に見える歌。詞書にいう「上人」(殿上人)は源資通。