刑部卿頼輔歌合し侍りけるに、よみてつかはしける
59 聞く人ぞ涙は落つる帰る雁鳴きてゆくなるあけぼのの空
皇太后宮大夫俊成
【通釈】
59 その声を聞く人の方が涙をこぼすよ、北国へ帰る雁が鳴いて飛んでゆく、その声が聞こえる曙の空。本歌「鳴き渡る雁の涙や落ちつらむ物思ふ宿の萩の上の露」(古今·秋上·読人しらず)。○刑部卿頼輔 藤原頼輔 作者。この歌合は嘉応元年(一一六九)の催しだが、伝わらない。○鳴きてゆくなる 「なる」は物音を聞いて推定する助動詞。▽長秋詠藻。秋、飛来した雁を歌った本歌を取って、春の帰雁への思いに変えた。