日本最古の、劇。喜劇だけで1ジャンルを形成している演劇は世界でも珍しい。滑稽なものまね芸が洗練され、室町時代に今の芸態に定着した。時代風潮である下克上を背景に、口語体で権力や世相を風刺した中世の庶民芸能。最古の台本に「天正狂言本」がある。同じ古典芸能ながら、面をつけた幽玄美を得意とする歌舞劇の能とは対照的だが、源流は同じであり、能楽堂で共演される。近年は狂言だけの会も様々な場所、劇場で上演されている。多くは「このあたりに住まいいたす者でござる」と自己紹介に始まり、「やるまいぞ」の追い込みで終わる。主人公をシテ、脇役をアドという。登場人物により7種類に大別できる。「福の神」など祝言ものの脇、「入間川」などの大名、「止動方角」など太郎冠者が反抗する小名、「八幡前」などの聟女(むこおんな)、「節分」などの鬼山伏、「宗論」などの出家座頭、それに重い曲の「花子(はなご)」「釣狐(つりぎつね)」「狸腹鼓(たぬきのはらつづみ)」などが入る集(あつめ)狂言の7種類。流儀は江戸時代に大蔵、鷺(さぎ)、和泉の3流に整備されたが、明治時代になり大名の庇護が受けられなくなると、鷺流はわずかに地方に伝えられる程度になった。現行曲は大蔵、和泉で260曲以上。「花子」を素材にした「身替座禅」などが歌舞伎舞踊などに影響を与えている。
狂言