郵便受けを覗《のぞ》くと、柱の太い、豪壮な民家を写した絵葉書が立っている。字を見ればすぐにわかる。
——今年は年賀状をもらったかなあ——
とにかく久しぶりの便りであることはまちがいない。
小さな字で書いてある。
�またアクセサリーの仕事を始めました。翡翠《ひすい》のよい細工があるということで、糸魚川《いといがわ》から魚津《うおづ》へと来てます。蜃気楼《しんきろう》は残念ながら見えません。そう、魚津は富山県。残りは、あと二つになりました。愛媛と和歌山。もう少しです�
二、三日、日を置いて、
——もう旅から帰っているかな——
と、電話をかけてみた。
しかし、ベルが鳴っているだけ……。
——どこかに勤めているのかな——。
葉書にはそんな一行が記してあった。夜の電話には、男の声が答えるかもしれない。中彦としては、とくにやましいことはないけれど、朋子の夫に対してはなにほどかの気詰まりを感じてしまう。
それに……朋子は、会いたければなにかの方法を講ずるはずだ。さしでがましいことは、あまりしないほうがいい。ぐずぐずと行動を先へ延ばすのは、中彦のむしろ気質に適っている。
それでも時折思い出して何度かはダイアルをまわした。その都度、朋子が不在だったのは、ただの偶然なのか、設計図がそうなっているからなのか、わからない。