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猫の事件27

时间: 2018-03-31    进入日语论坛
核心提示:形 見 妻が死んだ。 二十一年の結婚生活だった。格別仲のむつまじい夫婦ではなかったが、さりとて憎みあって暮らしていたわけ
(单词翻译:双击或拖选)
 形 見
 
 
 妻が死んだ。
 二十一年の結婚生活だった。格別仲のむつまじい夫婦ではなかったが、さりとて憎みあって暮らしていたわけではない。世間のどこにでもあるような平凡な夫婦、月並みの家庭。生活の方便としての親しさ。まあ、そんなところだったろう。
 見合い結婚だったから初めの数ヵ月はなじみにくかったが、すぐに気ごころも知れて親密になった。一、二年は甘い季節が続いただろうか。そのうちに倦怠期がやって来る。おたがいの欠点が見えて来る。諍《いさか》いも多くなる。やがてそれもいつのまにか通り過ぎてしまい、振り返って見れば、ただの共同生活者としての年月だけがやたらに長く横たわっているような気がしないでもない。
 妙子が生まれたのは結婚二年目。もう一人男の子がほしかったが、残念ながらこれは恵まれなかった。一人と言うことなら、娘でよかった。これからは妙子が私の身のまわりの世話をしてくれるだろう。
 妻の死顔は美しかった。化粧がよく肌に載っていた。若い頃には人の噂にのぼるほどの器量よしだったが、ここ数年妻の顔立ちをことさらに意識したことはない。年齢のせいばかりではない。やはり健康がおもわしくなかったからだろう。顔色はくすみ、美しさを汲み取るのはむつかしかった。
 四十五歳の死だから、まだ若い。私と一緒に暮らしたためにこんなに早く死んでしまったのか。だれかもっとやさしい男と結婚していたら長生きをしたのだろうか。
 いや、私が特にわがままな夫だというのではない。この点も世間並み。ほどほどのわがまま、ほどほどのやさしさ。とりたてて反省もなければ自負もない。ただ二十一年の年月はそれ自体、歴とした実体を備えている。妻の病いは胃から始まった。魚より肉のほうが好きだという私の嗜好が一家の食生活を支配し、それが妻の死に微妙な影響を与えたのかもしれない。通勤時間が長いので妻はいきおい早起きをしなければいけなかった。疲労もたまっただろう。それも彼女の健康にいくばくかの変化をもたらしただろう。どれがプラスの要因で、どれがマイナスの要因か、判断することはむつかしいけれど、とにかく結果として妻が早世《そうせい》した以上、私と生活をともにしたことになにがしかの原因があった、と考えるのは理屈に適《かな》っている。
 それとも妻はどの道この年齢で、この病いに冒されるよう運命を背負っていたのだろうか。むしろ私以外の男だったら、もっと早い死に遭遇したとも考えられる。わからない。
 葬儀のあわただしさが通り過ぎると、しばらくはこんなことを考える夜が続いた。私はやはり妻をそれなりに愛していたのだろう。よし、蜜のような甘さではなかったとしても……。
 初七日も過ぎ、妻の箪笥の整理をしていたら、引出しの奥から古い包装紙に包まれてネクタイが一本現われた。
 ——こんなものが……まだあったのか——
 私は古い写真でも突きつけられたような驚きを覚えた。
 この色、この模様、しばらく忘れていたが、はっきりと見覚えのある品だ。紺色の地に水玉が散っている。わるいデザインではないけれど、はでなことはたしかに相当にはでである。昔のサラリーマンはもっと地味なネクタイを締めていた。今の私には華やか過ぎる。
「しかし、締めてみるかな」
 このネクタイを贈ってくれたのは……そう、春海《はるみ》という名の女だった。職場で机を並べていた。彼女はどうしているだろう?
 遠い記憶の中から春海の顔が少しずつ浮かんで来る。正確には思い出せない。脳の働きをよほど鋭くしないと、なかなかそのイメージを鮮明にすることができない。まず二重まぶたの、茶色い眼が浮かぶ。鼻は輪郭を思い出すのがむつかしい。唇はちょっと肉感的にふくらんでいた。笑うと白い歯がこぼれる。彼女の面差しの中で一番みごとだったのは、笑顔の明るさ、歯並びの美しさだったろう。
 家庭環境の複雑な子だった。爽快な笑顔の中にも、どこか無理に作って笑っているような影があった。
「笑顔がきれいだね」
 と、ほめれば、
「家では笑わないの。だから会社でたくさん笑うの」
 と、答える。
 母は継母《ままはは》。その母の子が下に二人いるらしかった。本当の母とは三歳のときに死別したとか……。
 そのさびしさが春海を私に近づけたのかもしれない。私も春海を愛した。ほんのいっときではあったが自分の妻を憎むほどに。
 それにしても、いったい二人はなんのための関係だったのか?
 親しくなったきっかけも、ホテルで抱きあうまでになった経過も、それから別れるまでのいきさつもみんなはっきりと思い出すことができるのだが、もう一つ納得のできないものが残っている。
 ——春海はどういうつもりで私と親しくしていたのか——
 彼女の心の中の動機がよく掴めない。
 私に妻子があることは充分に知っていた。だから私と結婚することなどけっして考えやしなかったはずだ。
 ほんのひとときの火遊び。ちょっとした冒険。そんなタイプの娘には見えなかったけれど、現代っ子は違うのだろうか。それとも女はみんなそんな欲望を隠し持っているのだろうか。
 私と体を重ねたとき、彼女は他の男との結婚が決まっていた。結婚の日が迫っていた。つまり……結婚を前にして私に抱かれることをわざわざ企てたのだった。
「初めてだったのか」
「ええ」
「どうして?」
「わからない。ただ、こうしたかったの」
 心から喜んで飛び込む結婚生活ではなかったのだろう。無理に飛翔するためには、それなりのスプリング・ボードが必要だったのかもしれない。
 十日後に春海は退職した。職場の上役とOLの恋。それもとびきり淡い味つけのやつ。めずらしくもない。どこの職場にも転がっている。
「これ……」
 最後の日に、春海はそっけないほど堅い身振りで私の引出しの中に細い箱を押し込んだ。
「なんだ?」
「…………」
 別れの贈り物だということはすぐにわかった。
「ありがとう」
 その声が届いたかどうか。すでに贈り主は机と机のあいだを抜けるうしろ姿に変わっていた。
 私は残業のあと人気のない事務室で包みを開いた。紺地に水玉のネクタイ。趣味は悪くないが、少し若過ぎる。春海の目には私はこのネクタイほどに若く映っていたのだろうか。
 
 追想はさらに広がる。
「なによ、このネクタイ」
 洋服箪笥の中からプレゼントのネクタイを取って結びかけたとき、妻がめざとく見つけて咎《とが》めた。その表情も目の奥に浮かぶ。
「パチンコで取った」
 とっさにそう答えたのは、心のやましさのせいだったろう。
 ネクタイを贈り物としてもらうのは、つね日頃からないことではなかった。仕事で利用するバーやクラブからもよくもらった。職場の女性から贈られることもなくはなかった。いつももらっている品だから、ことさら妻に隠すこともあるまいと思って、ネクタイかけにぶらさげておいた。
 妻は水玉やチェックなど幾何学模様を好むほうだ。私はむしろ「いい柄ね」とほめられることを期待していたくらいだった。ところが……。
「パチンコ……? さすがに悪い趣味ね」
 私は妻の言葉を計りかねた。どこかがおかしい。本当にパチンコ店の景品だと信じたのだろうか。それともなにか漠然と、このネクタイの背後にある感情を感じ取ったのだろうか。たとえば、春海に対する私の心残りを……。
「そうかなあ。そんなに悪いか」
「悪いわ。天道虫のポツポツみたいじゃない」
「近頃はやっているらしいぜ」
「まともなサラリーマンの趣味じゃないわね。黴菌《ばいきん》みたい」
 妥協を許さないほど、きっぱりとした語気で言う。
「そうかな」
「そうよ。やめて」
 妻は手を伸ばして私の首筋からネクタイを奪った。こんな仕ぐさもめずらしい。
 あまりこだわってはかえって疑いを招く。どこまでもパチンコの景品であるかのように取りつくろわなければなるまい。
「じゃあ、やめた」
 水玉を妻の手に委ね、私は手に触れるネクタイを締めて家を出た。
 そのあとあのネクタイはどうなったか。ついぞ見かけることもなかったし、妻に尋ねもしなかった。
 そして十数年後、妻が死んで……それが突然引出しの底から現われた。
 大切に取っておいたという印象ではない。そそくさと詰め込まれ、そのまま引出しの奥へ奥へと追いやられ、いつしか一番隅に安住してしまった——そんなふうである。捻《ねじ》れて皺が寄り、貧相な様子に変ってしまった。
 ——それにしても——
 と、疑念が首を持ちあげる。
 どうして妻はネクタイの背後にある事情を嗅ぎわけたのか。けっして趣味の悪い品ではない。ああまであしざまに言われる模様ではない。
 さりとて春海との関係を妻が知るはずもない。社内でも気がつく者はいなかった。それほど秘かな関係なのだから、春海から贈られた品だとわかる可能性も皆無に近かった。
 ——女の勘なのだろうか——
 どうやらそうらしい。なにかしらこの模様を見たとき、直感的に閃《ひらめ》くものがあったのだ。そうとしか考えられない。
 私がどこの女とどんな時間を持ったか、妻は明確にはなにも知らなかった。しかし、妻は夫がネクタイを身につける瞬間の、そのなにかの表情の中から、さながら懐剣の閃きでも見るように危険なものを感じ取った。
 ——嫉妬かな——
 もう夫婦生活の甘い感情などをすっかり失った時期だったから、なまぐさいやきもちではなかっただろうけれど、やはり妻は鋭く反応せずにはいられなかったのだろう。
 ——おもしろいな——
 古いネクタイを握っていると、あの時のかすかな無気味さが胸に戻って来る。
「なに、それ?」
 部屋の隅に立っている父を見て娘が怪訝な顔で尋ねた。
「これ、アイロンをかけておいてくれ」
「あ、いい柄」
「そう思うか」
「うん。たまにはお父さんもこういうの締めたらいいわ」
「そうかな」
「どうしたの? お母さんの形見?」
「いや。もらい物だ。ずっと前にもらって忘れていた」
「へえー」
 アイロンをかけると、ネクタイは扁平につぶされ、いくぶん安っぽい様子になってしまったが、色合いの上品さはそのまま残っている。
 ——せめて妻の喪があけるまで締めるのはよそうか——
 あの時以来、春海の噂は聞かない。幸福に暮らしているだろうか、もう三十代のなかばくらいになったはずだが……。
 
「ねえ、お母さんは死ぬこと自分で知っていたのかしら」
 初七日が過ぎると弔問客も絶え、父と娘だけのさびしい生活が始まる。二人で食卓を囲んでいると、いまに「ただいま」と声が響いて妻が帰って来るような気配が流れる。
 そして�ああ、そんなことはないんだな�とあらためて死の現実を噛み締める。
「うーん、口先ではなおるつもりでいたけど、本心は知ってたかもしれないな。どうして?」
 妙子は立ちあがり、小引出しから小さな封筒を取って差し出す。
「なんだ?」
�見て�とばかり顎を突き出した。なにやら中に堅いものが入っている。開くと、まずメモ用紙に記した走り書きが現われた。
「化粧バッグから出て来たわ」
「ふーん」
 なめらかな筆使いは明らかに妻のものだ。
�妙子さん、これをあなたにあげます。大切にしてくださいね�
 ボールペンの文字はそう読めた。
 短い文章だが、文面から受ける感触は不思議におごそかで、死を覚悟した母が娘に形見を残す、そのそえ書きのように映った。
 碧色の石を載せた指輪が封筒の中からこぼれ落ちた。
「ほう?」
 またしても遠い情景が甦える。
 こちらはネクタイの記憶よりさらに古い。二十年以上も昔のことだ。結婚をして間もない頃だったろうか。ある日、妻の指にこの指輪が輝いていた。私は目を見張った。妻の身振りにはかすかな狼狽の色があった。
「どうしたんだ?」
「ううん、べつに……。大森の叔母さんから……」
 どこかがおかしい。私はその指輪がどうしても好きになれなかった。
「そんなもの……よせよ」
 指輪を見るたびに同じ言葉を繰り返した。
 疑念を抱く根拠が明白にあったわけではない。ただ、その指輪の存在そのものがうとましく、好きになれなかった。指輪は私の目の前から消え、今日まで姿を現わさなかった。
 ふと思う。妻が水玉のネクタイを嫌ったのも同じ事情ではなかったのか。夫婦は独特の感覚でいまわしいものの存在を嗅ぎわけるのかもしれない。
 今その不思議な品は娘の指先で光っている。
「品のいい指輪ね。お母さんこんなの持ってたなんて、知らなかったわ」
 上品なデザインでありながら、私の心を苛立たせたのはなぜだったろう? やはりあのネクタイと同じ事情が潜んでいたのかもしれない。二十年も古いこと……。
 ——待てよ——
 妙子もそのくらいの年齢になるのか。妙子が少しも私に似た娘ではないことを私は今さらのように思い出した。
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