日が昇るとハンスは目が覚め、深いほら穴に寝転がっていました。辺りを見回し、「あれ~、ここはどこだ?」と叫びました。それから起きあがり、ほら穴から這って出て、森へ入っていき、「ここで全くひとりぼっちで捨てられているのに、どうやって馬を手に入れようか?」と思いました。こうして思いに沈んで歩いていると小さなぶち猫と出会いました。猫はとてもやさしく、「ハンス、どこへ行くの?」と言いました。「ああ、お前は手伝えないよ。」「あなたの望みをよく知ってるのよ。」と猫は言いました。「いい馬が欲しいのね。私と一緒に来て、七年私の忠実な召使をやりなさい。そうしたら生まれてこのかた見たこともないようなりっぱな馬をあげましょう。」(おや、これは変な猫だな、だが猫の言ってることが本当かどうか確かめてやろう。)とハンスは思いました。
それでぶち猫はハンスを自分の魔法にかかった城へ連れて行きました。そこには子猫だけがそのぶち猫の召使をしていました。子猫たちは素早く階段を上下して陽気で楽しそうでした。夜にハンスとぶち猫が食事の席につくと、三匹の子猫が音楽を奏でるように仰せつかり、一匹はチェロを弾き、もう一匹はバイオリンを弾き、三匹目は口にトランペットをくわえ、頬っぺたをいっぱいに膨らませて吹きました。食事が終わると、食卓が片づけられ、ぶち猫は言いました。「さあ、ハンス、こっちへ来て私と踊って。」「嫌だよ。」とハンスは言いました。「ニャンコとは踊らないよ。そんなことしたことない。」「それではハンスをベッドに連れてお行き。」とぶち猫は猫たちに言いました。それで一匹が明かりをつけて寝室へ案内しました。一匹がハンスの靴を脱がせ、一匹が靴下を脱がせ、最後に一匹がろうそくを消しました。次の朝、猫たちは戻ってきてハンスが起きるのを手伝い、一匹は靴下をはかせ、一匹は靴下止めを結わえ、一匹は靴を持って来て、一匹はハンスの顔を洗い、一匹は尻尾でその顔を拭きました。「わあ、とてもふわふわしてるよ。」とハンスは言いました。
しかし、ハンスはぶち猫に仕え、毎日たきぎを割らなくてはいけませんでした。それをするのに、ハンスは銀の斧を受け取りましたが、くさびと鋸も銀でできており、槌は銅でできていました。それでハンスはたきぎを小さく切り、その家にとどまり、おいしい食べ物と飲み物をだされましたが、ぶち猫とその召使の他には誰も見かけませんでした。あるときぶち猫はハンスに、「うちの草地へ行って草を刈り、干しておくれ。」と言って、銀の草刈り鎌と金の砥石を渡しましたが、忘れずにまた返すようにと言いました。そこでハンスはそこに行って言われたことをやり、仕事が終わったとき草刈り鎌と砥石と干し草を家に運び、まだお礼を受け取る時ではないんですか?と尋ねました。「まだです。」と猫は言いました。「同じようなことをもっとやらねばなりません。銀の角材、大工の斧、曲尺、必要なものは何でも、全部銀でできていて、そろっています。これで小さな家を建てておくれ。」それでハンスは小さな家を作り、もう全部やりました、と言いました。それでもやはり馬をもらえませんでした。
それにもかかわらず、七年はハンスにはまるで六か月のように過ぎてしまいました。ぶち猫が、私の馬をみたいかい?とハンスに尋ねました。「ええ」とハンスは言いました。するとぶち猫は小さな家の戸を開けました。そして開けてしまうと、12頭の馬がいました。それはとても見事な馬でつやがよく光っていたので、その馬たちを見てハンスの心は躍りました。今度はぶち猫はハンスに飲んだり食べたりさせ、「家にお帰り。今は馬を渡しませんが、三日経ったら、あなたを追って馬を連れていきますよ。」と言いました。そこでハンスは出かけ、ぶち猫は水車小屋に帰る道を教えてくれました。
ところで、ぶち猫は一度としてハンスに新しい上着をくれたことがなく、前にもってきた汚い古い仕事着を着続けるしかありませんでした。それで七年の間にどこもかしこも小さくなってしまいました。家に着くと、他の二人の見習いもまたそこにいました。二人とも確かに馬を連れてきてはいましたが、一頭は目がみえなくて、もう一頭は足が悪いうまでした。二人はハンスに、お前の馬はどこだ?と尋ねました。「三日したら着くんだ。」すると二人は笑って、「へ―え!間抜けなハンスよ、どこで馬を手に入れるんだい?」と言いました。「いい馬だよ。」ハンスは居間に行きましたが粉屋は、お前は食卓に座ってはいけない、そんなにぼろぼろで破れているんじゃ誰か入ってきたらみんな恥をかくからな、と言いました。それでみんなはハンスに外で食べさせました。夜になってみんなが休む時間になると、他の二人はハンスをベッドに入れようとしませんでした。それでとうとうハンスはがちょう小屋にもぐりこんでちいさな固いわらにねるしか仕方ありませんでした。
三日経って、ハンスが朝に目覚めると、六頭立ての馬車がやってきました。その馬はとても立派だったので見ても嬉しくなりました。一人の家来が七頭目もひいて来ていて、それはかわいそうな粉屋の若者にあげる馬でした。それからきらびやかな王女が馬車から下りて粉屋に入りました。この王女はかわいそうなハンスが七年仕えた小さなぶち猫だったのです。王女は、見習いのできそこないはどこか尋ねました。すると粉屋は、「あいつはここの家にいれられませんよ。ぼろぼろの服ですからね。がちょう小屋に寝ています。」と言いました。すると王様の娘は、すぐにつれてくるように、と言いました。そこでみんながハンスを連れ出すと、ハンスは小さすぎる仕事着をかきあわせて、体を隠さなくてはなりませんでした。家来たちは素晴らしい服をとりだし、ハンスの体を洗い、服を着せました。それが終わると、ハンスはどこの王様にも負けないくらい立派に見えました。それから、王女は他の見習いたちが連れてきた馬を見たがり、目が見えない一頭と足の悪い一頭を見ました。そこで自分が連れてきた七頭目の馬を連れてくるように家来に言いつけました。粉屋はその馬を見ると、こんな馬は今まで自分の庭に入ってきたことがない、と言いました。「それは三番目の見習いの馬です。」と王女は言いました。「それじゃハンスに水車小屋をやることにしよう。」と粉屋は言いましたが、王様の娘は、馬はここにおいていきますし、水車小屋もあなたがもっているように、と言って、忠実なハンスを馬車に連れていき乗せると一緒に去っていきました。
先ず二人はハンスが銀の道具で建てた小さな家に乗りつけました。なんと、それは大きなお城になっていて、中にあるものは全て金と銀でできていました。そのあと、王女はハンスと結婚しました。ハンスは金持ちに、一生暮らしてもお金に困らないほどの金持ちになりました。
このあと、間抜けな人は重要人物になれっこない、とは誰にも言わせませんよ。