そこで息子はしばらく歩いていき、いつも「あまり無い、あまり無い、あまり無い」ととなえていました。すると、漁師たちが集まっているところを通りかかり、「ご幸運を!あまり無い、あまり無い、あまり無い」と言いました。「何だと?若造、あまり無い、だと?」そして網が引き出されるとあまり魚が入っていませんでした。そこで漁師の一人が若者を棒でなぐり、「どうだ、二度となぐられたいと思わないだろう。」と言いました。「じゃ、何て言えばいいんですか?」と若者は尋ねました。「いっぱいつかまえろ、いっぱいつかまえろ、と言うんだ」
そのあと、若者はしばらく歩き、「いっぱいつかまえろ、いっぱいつかまえろ」と言っていましたが、首つり台のところにさしかかりました。そこでは可哀そうな罪人がいて、しばり首になるところでした。それで若者は、「お早う、いっぱいつかまえろ、いっぱいつかまえろ」と言いました。「何だと、この野郎、いっぱいつかまえろ、だと?悪い奴が世の中にもっといると言いたいのか?これでたくさんじゃないのか?」そうしてまたまた背中をさんざんなぐられました。「じゃ、何て言ったらいいんですか?」と若者は言いました。「神様、あわれな魂にお慈悲を、と言うんだ」
また若者はしばらく歩いていき、「神様、あわれな魂にお慈悲を」ととなえていました。すると、みぞにさしかかり、そこでは解体人が立って馬を解体していました。若者は「お早う、神様、あわれな魂にお慈悲を」と言いました。「何だと?この意地の悪い悪党め」と言って解体人は横っ面を強くひっぱたいたので、若者は目がくらみました。「じゃ、何と言えばいいんですか?」「腐った肉はみぞに入ってろ、と言うんだ」
それで若者はまた歩いていき、いつも「腐った肉はみぞに入ってろ、腐った肉はみぞに入ってろ」ととなえていました。そうして人がいっぱいのっている馬車のところに来ました。そこで若者は「お早う、腐った肉はみぞに入ってろ」と言いました。すると馬車がみぞに落ち、御者はむちをとり若者をうちすえました。若者はしかたなくやっとこさ歩いて母親のところへ戻り、死ぬまで二度と旅に出ませんでした。