ダドリーの両手がびくっと動いて口を覆おおった。両親とハリーが見つめているのに気づき、ダドリーはゆっくり手を下ろして聞いた。「いるのか……もっと」
「もっと」ハリーは笑った。「僕たちを襲おそった二体のほかにもっといるかって もちろんだとも。何百、いやいまはもう何千かもしれない。恐れと絶望ぜつぼうを食い物にして生きるやつらのことだ――」
「もういい、もういい」バーノンおじさんが怒ど鳴なりちらした。「おまえの言いたいことはわかった――」
「そうだといいけどね」ハリーが言った。「なにしろ僕が十七歳になったとたん、連中は――死し喰くい人びとだとか吸魂鬼だとか、たぶん亡者もうじゃたちまで、つまり闇やみの魔術まじゅつで動かされる屍しかばねのことだけど――おじさんたちを見つけて、必ず襲ってくる。それに、おじさんが昔、魔法使いから逃げようとしたときのことを思い出せばわかってくれると思うけど、おじさんたちには助けが必要なんだ」
一いっ瞬しゅん沈ちん黙もくが流れた。その短い時間に、ハグリッドがその昔ぶち破やぶった木の扉とびらの音が遠く響ひびき、そのときからいままでの長い年月を伝わって反響はんきょうしてくるようだった。おばのペチュニアはバーノンおじさんを見つめ、ダドリーはハリーをじっと見ていた。やがておじが口走った。「しかし、わしの仕事はどうなる ダドリーの学校は そういうことは、のらくら者の魔法使いなんかにゃ、どうでもいいことなんだろうが――」
「まだわかってないのか」ハリーが怒鳴った。「やつらは、僕の父さんや母さんとおんなじように、おじさんたちを拷問ごうもんして殺すんだ」
「パパ」ダドリーが大声で言った。「パパ――僕、騎き士し団だんの人たちと一緒いっしょに行く」
「ダドリー」ハリーが言った。「君、生まれて初めてまともなことを言ったぜ」
これでうまくいく、とハリーは思った。ダドリーが怖気おじけづいて騎士団の助けを受け入れるなら、親も従ついていくはずだ。かわいいダディちゃんと離はなればなれになることなど考えられない。ハリーは暖炉だんろの上にある骨こっ董とう品ひんの時計をちらりと見た。
「あと五分ぐらいで迎えが来るよ」
そう言ってもダーズリーたちからは何の反応もないので、ハリーは部屋を出た。おじ、おば、そしていとことの別れ――それもたぶん永遠の別れ――心の準備じゅんびをするのに、あまり悲しまなくてすむ別れだった。にもかかわらず、なんとなく気づまりな雰ふん囲い気きが流れていた。十六年間しっかり憎にくしみ合った末の別れには、普通、何と言うのだっけ
ハリーは自分の部屋に戻り、意味もなくリュックサックをいじり、それから、ふくろうナッツを二個、鳥籠とりかごの格子こうしから押し込むようにヘドウィグに差し入れたが、二つとも籠の底にボトッと鈍にぶい音を立てて落ち、ヘドウィグは見向きもしなかった。
「僕たち出かけるんだ。もうすぐだよ」ハリーは話しかけた。「そしたら、また飛べるようになるからね」
玄関げんかんの呼よび鈴りんが鳴った。ハリーはちょっと迷ったが、部屋を出て階段を下りた。ヘスチアとディーダラスだけでダーズリー一味いちみを相手にできると思うのは期待しすぎだ。