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平の将門107

时间: 2018-11-24    进入日语论坛
核心提示:途上の難 半日のまに、国庁は、城塞のように固められた。 常陸の行方《なめかた》、河内、那珂郡などの諸方からも、なお続々、
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 途上の難
 
 
 半日のまに、国庁は、城塞のように固められた。
 常陸の行方《なめかた》、河内、那珂郡などの諸方からも、なお続々、国境の変を聞いて、国府の官衙や官倉を守るべく、兵馬が駈けつけているとも聞えた。
 一時、騒然と紊《みだ》れ噪《さわ》いだ住民も、やっと落着いた。国司藤原維茂以下、すべてが甲冑に身をかためて、
「いざ来たれ。ひと泡吹かしてくれん」
 と、弓を張り、楯を並べて、待ち構えた。
 一軍を柵から遠く出して、始終、物見を放ったり、馬の脚を馴らしたり、闘志満々たる意気を示していたのは、いうまでもなく為憲で、
「あわれ将門も、ここへ迫らば網の魚だ。この為憲の下に、常陸には常備の強兵三千が、いつでも事に備えて錬られているのを彼は知らぬとみえる」
 と、あたりの味方へ、豪語を払っていた。
 しかし、諜報によると、将門の軍勢は、およそ四、五里も先に兵馬を止めて、どうやらそれ以上には前進して来るもようなく、夜営の準備までしているという。
「兵数は、どれ程だな」
 と、為憲は物見へたずねた。
「ざっと、千騎程かと見えます」
「なに、千人。なんの事だ」
 と、為憲は大いに笑った。他国へ侵攻するには、少なくもその国の常備以上な兵力を以て向うのが常識だ。こけ脅しな——と若い為憲は、それだけで、もう将門の力を、充分に見縊《みくび》っていた。
 以後の物見は、夕方に迫っても、何の変化も告げて来ない。
 彼は、兵を分けて、要地要地に埋伏《まいふく》させ、やがて郎党数騎をつれて、国庁の本営へ帰って来た。
 すると国庁の広場に、羈旅《きりよ》の人馬が一群れ、夕闇の中でまごまごしていた。見ると、その中に、今朝旅舎で別れた弾正忠《だんじようのちゆう》定遠も、ぼんやりした顔をして佇んでいる。
「やあ、弾正忠殿。どうなすったのです」
「お。為憲どのか。合戦のもようは、どうなのです」
「合戦。そんなものは、どこにも起ってはおりませぬよ。それよりも、御出発はどうなされたので」
「いや、かくの如く、荷駄供人も旅装をさせて、宿は立っては来たのですが、途中、戦に巻き込まれては大変だと思うし、維茂どのも貞盛どのも、そこは保証の限りでない、危険は充分に考えられると、しきりにお引き留め下さるのでな」
「ははは。初めの驚きが大きかったので、父もちと狼狽しているのでしょう」
「街道は無事に行けましょうか」
「まだ一本の矢も射てはいません。明日の事は知れぬが、今宵は平穏です。もしお立ちを急ぐお心ならば、途中、安全な所まで、部下の兵を守りにつけて送らせましょう」
 為憲にいわれてから、急に定遠は腹を極めた。両軍の矢交ぜを見ないうちに、何しろ、常陸を離れてしまうに限ると、気が急《せ》かれたのだ。
 貞盛は、昼間から国庁の内にあって、維茂や府官の中に立ち交じり、いわゆる帷幕《いばく》の内の助勢をしていた。本来、彼はここの吏ではないし、公にも、庁政に関われという任命は帯びているわけでもないから、官衙の内部に姿を現わして、国司へ助言したり指図がましい振舞いをなすなどという事は、違法でもあるし、越権な沙汰だが、事態が事態なので、誰も怪しむ者はいない。
「弾正忠様には、やはり夜にかけても今のうちに、御出発になりたいと仰せられますが」
 府官の一人が、維茂に知らせて来た。
 貞盛も、聞いて、
「それは、物騒だが?」
 と、ひき止めるつもりで、慌てて庁の庭へ出て来てみると、定遠はもう馬に乗って、従者に口輪を取らせていた。
「大丈夫ですよ。御心配はありません……」
 そう告げたのは、出発して行く当人ではなく、側に見ていた為憲である。
「私の部下にいいつけて、途中まで、送らせますから」——と、父や貞盛の杞憂を笑っていうのだった。
 ぜひなく、二人も、
「では、お気をつけて」
 と、定遠の一行を、庁の門外まで、見送った。
 すると、その夜も明けないうちに、弾正忠定遠とその随員を送って行った国庁の兵が、逃げ帰って来て、
「一大事です。途中、将門の兵に取囲まれ有無もいわせず、弾正忠様には、捕虜として、敵の手に奪われてしまいました。——その他の随員も、みな縄目をうけて、将門の陣中へ引っ立てられた様子に見えます」
 と、意気地のない報告であった。
 しかも、二十名も付けてやった兵のうち、帰って来たのは四、五名にすぎない。
「すわ、将門が挑戦して来る前ぶれとみえるぞ」
 為憲は、暁のうちに、陣頭に立ち、国府の内も、色めき立っていた。
 ——と、その朝。将門方から、騎馬甲冑の一団が、進んで来て、
「これは、下総の平将門が使者です。常陸の国司維茂どのに物申す事のあって推参して候。——維茂どのの営へ導き給え」
 と、為憲の陣前に向い、まんまると寄り合いながら、大声にいっていた。
 
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