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灰神楽(1)

时间: 2023-10-07    进入日语论坛
核心提示:灰神楽江戸川乱歩一アッと思う間に、相手は、まるで泥で拵(こしら)えた人形がくずれでもする様に、グナリと、前の机の上に平たく
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灰神楽

江戸川乱歩

 


アッと思う間に、相手は、まるで泥で(こしら)えた人形がくずれでもする様に、グナリと、前の机の上に平たくなった。顔は、鼻柱がくだけはしないかと思われる程、ペッタリと真正面に、机におしつけられていた。そして、その顔の黄色い皮膚(ひふ)と、机掛(つくえかけ)の青い織物(おりもの)との間から、椿(つばき)の様に真赤な液体が、ドクドクと吹き出していた。
今の騒ぎで鉄瓶(てつびん)がくつがえり、大きな(きり)角火鉢(かくひばち)からは、噴火山の様に灰神楽(はいかぐら)が立昇って、それが拳銃(ピストル)の煙と一緒に、まるで濃霧の様に部屋の中をとじ込めていた。
覗きからくりの絵板が、カタリと落ちた様に、一刹那(いっせつな)に世界が変って(しま)った。庄太郎(しょうたろう)はいっそ不思議な気がした。
「こりゃまあ、どうしたことだ」
彼は胸の(うち)で、さも暢気相(のんきそう)にそんなことを()っていた。
(しか)し、数秒間の後には、彼は右の手先が重いのを意識した。見ると、そこには、相手の奥村一郎(おくむらいちろう)所有の小型拳銃(ピストル)が光っていた。「(おれ)が殺したんだ」ギョクンと(のど)がつかえた様な気がした。胸の所がガラン(どう)になって、心臓がいやに上の方へ浮上って来た。そして、(あご)の筋肉がツーンとしびれて、やがて、歯の根がガクガクと動き始めた。
意識の恢復(かいふく)した彼が第一に考えたことは、いうまでもなく「銃声」についてであった。彼自身には、ただ変な手答えの(ほか)何の物音も聞えなかったけれど、拳銃(ピストル)が発射された以上、「銃声」が響かぬ(はず)はなく、それを聞きつけて、誰かがここへやって来はしないかという心配であった。
彼はいきなり立上って、グルグルと部屋の中を歩き(まわ)った。時々立止っては耳をすました。
隣の部屋には階段の降り口があった。だが庄太郎には、そこへ近づく勇気がなかった。今にもヌッと人の頭が、そこへ現れ(そう)な気がした。彼は階段の方へ行きかけては引返した。
併し、(しばら)くそうしていても、誰も来る気勢(けはい)がなかった。一方では、時間が()つにつれて、庄太郎の記憶力が(よみがえ)って来た、「何を(こわ)がっているのだ。階下には誰もいなかった筈じゃないか」奥村の細君(さいくん)は里へ帰っているのだし、(ばあ)やは彼の来る以前に、可也(かなり)遠方へ使(つかい)に出されたというではないか。「だが待てよ、()しや近所の人が……」(ようや)く冷静を取返した庄太郎は、死人のすぐ前に開け放された障子(しょうじ)から、そっと半面を出して(のぞ)いて見た。広い庭を(へだ)てて左右に隣家の二階が見えた。一方は不在らしく雨戸が閉っているし、もう一方はガランと開け放した座敷に、人影もなかった。正面は茂った木立を通して、(へい)の向うに広っぱがあり、そこに、数名の青年が鞠投(まりな)げをやっているのがチラチラと見えていた。彼等は何も知らないらしく、夢中になって遊んでいた。秋の空に、鞠を打つバットの音が()えて響いた。
彼は、これ程の大事件を知らぬ顔に、静まり返っている世間が、不思議で(たま)らなかった。「ひょっとしたら、俺は夢を見ているのではないか」そんなことを考えて見たりした。併し振り返ると、そこには(あけ)(そま)った死人が無気味な人形の様に(もく)していた。その様子が明らかに夢ではなかった。
やがて彼は、ふとある事に気づいた。丁度稲の取入れ時で、附近の田畑(たはた)には、鳥おどしの(から)鉄砲があちこちで鳴り響いていた。さっき奥村との対談中、あんなに激している際にも、彼は時々その音を聞いた。今彼が奥村を打殺(うちころ)した銃声も、遠方の人々には、その鳥おどしの銃声と区別がつかなかったに相違ない。
家には誰もいない、銃声は疑われなかった。とすると、うまく行けば彼は助かるかも知れないのである。
「早く、早く、早く」
耳の奥で半鐘(はんしょう)の様なものが、ガンガンと鳴り出した。
彼はその時もまだ手にしていた拳銃(ピストル)を、死人の(そば)へ投げ出すと、ソロソロと階段の方へ行こうとした。そして、一歩足を踏み出した時である。庭の方でバサッというひどい音がして、樹の枝がザワザワと鳴った。
「人!」
彼は吐き気の様なものを感じて、その方を振り向いた。だが、そこには彼の予期した様な人影はなかった。今の物音は一体何事であったろう。彼は判断を下し()ねて、(むし)ろ判断をしようともせず、一瞬間そこに立往生(たちおうじょう)をしていた。
「庭の中だよ」
すると、外の広っぱの方から、そんな声が聞えて来た。
「中かい。じゃ俺が取って来よう」
それは聞き覚えのある、奥村の弟の中学生の声であった。彼はさっき広っぱの方を覗いた時に、その奥村二郎(じろう)がバットを振り廻しているのを、頭の(すみ)で認めたことを思出した。
やがて、快活な跫音(あしおと)と、バタンと裏木戸の()く音とが聞え、それから、ガサガサと植込みの間を歩き廻る様子が、二郎の(はげ)しい呼吸(いき)づかいまでも、手に取る様に感じられるのであった。庄太郎には殊更(ことさら)そう思われたのか知れぬけれど、ボールを探すのは可也手間取った。二郎は、さも暢気相に口笛など吹きながら、いつまでもゴソゴソという音をやめなかった。
「あったよう」

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