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恶灵(9)

时间: 2021-08-19    进入日语论坛
核心提示: 殺人の方法が余り異様なので、これを単なる盗賊の仕業(しわざ)だとは誰も考えなかった様だが、順序として、一応盗難品の有無が
(单词翻译:双击或拖选)

 殺人の方法が余り異様なので、これを単なる盗賊の仕業(しわざ)だとは誰も考えなかった様だが、順序として、一応盗難品の有無が調べられた。その結果は、君も想像する通り、邸内には何一品(ひとしな)紛失したものもないことが確められたに過ぎない。それは被害者の左の薬指にはめられた高価な宝石入りの白金(プラチナ)の指環がそのまま残っていた事によっても明かであった。
 それから、被害者の実兄と女中と僕とは、型通りの訊問を受けたが、僕の判断する限りでは、検事はこれという捜査上の材料を掴むことは出来なかった。被害者の姉崎曽恵子さんは、一種の社交家ではあったけれど、非常にしとやかな寧ろ内気な、そして古風な道徳家で、若い未亡人に立ち易い(うわさ)なども全く聞かなかったし、まして人に恨みを受ける様な人柄では決してなかった。検事の(うたがい)深い訊問に対して、彼女の兄さんと女中とは、繰返しこの事を確言した。結局、姉崎家屋内での捜査は、右に図解した奇妙な一枚の紙切れの外には、全く得る所がなかったのだ。そこで、問題は女中が使に出てから帰宅したまでの、つまり被害者が一人ぼっちで家にいた時間、午後一時頃から四時半頃までに、姉崎家に出入りした人物を、外部から探し出すことが出来るかどうかの一点に押し縮められた。これが検事達の最後の頼みの綱であった。
 局面がそこまで来た時、僕は当然ある人物を思出さなければならなかった。云うまでもなく、この手紙の初めに書いた躄乞食のことだ。あいつに若し多少でも視力があったならば、そして、今日の午後ずっと同じ空地にいたのだとすれば、あの空地は丁度姉崎家の門の斜向(すじむかい)に当るのだから、そこを出入りした人物を目撃しているに違いない。あの片輪者こそ、唯一の証人に違いない(註)。僕は思出すとすぐ、その事を綿貫検事に告げた。
「これから直ぐ行って見ましょう。まだ元の所にいて()れればいいが」綿貫氏というのは、そういう気軽な、併し犯罪研究には異常に熱心な、少し風変りな検事なのだ。そこで人々は姉崎家の手提(てさげ)電燈を借りて、ゾロゾロと門外の空地へと出て行った。
 手提電燈の丸い光の中に、海坊主みたいな格好をして、躄乞食は元の場所にいた。()を防ぐ為に頭から汚い風呂敷の様なものを被って、やっぱり躄車の中にじっとしていたのだ。一人の刑事が、いきなりその風呂敷を取りのけると、片輪者は雛鶏(ひよっこ)の様に歯のない口を黒く大きく開いて、「イヤー」と、怪鳥(かいちょう)の悲鳴を上げ、逃げ出す力はないので、片っ方()けの細い腕を、顔の前で左右に振り動かして、敵を防ぐ仕草(しぐさ)をした。
 決してお前を(しか)るのではないと得心(とくしん)させて、ボツボツ(たず)ねて行くと、乞食は少女の様な可愛らしい声で、存外ハッキリ答弁することが出来た。先ず彼の白っぽく見える左眼は(さいわい)にも普通の視力を持っていることが確められた。今日はおひる頃からずっとその空地にいて、前の往来を(随って姉崎家の門をも)眺めていたことも分った。「では、おひる過ぎから夕方までの間に、あの門を出入りした人を見なかったか。ここにいる女中さんと、この男の人の外にだよ」と、検事は、その筋の人々に混って立っていた姉崎家の女中と僕とを指さして、物柔(ものやわらか)に訊ねた。すると乞食は、刑事の手提電燈に射られた僕と女中とを白い眼で見上げながら、外に二人あの門を入った人があると、ペタペタと歯のない(くちびる)で答えた。

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