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非人之恋(7)

时间: 2023-09-21    进入日语论坛
核心提示:七 門野家は町でも知られた旧家だものですから、蔵の二階には、先祖以来の様々の古めかしい品々が、まるで骨董屋(こっとうや)の
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 門野家は町でも知られた旧家だものですから、蔵の二階には、先祖以来の様々の古めかしい品々が、まるで骨董屋(こっとうや)の店先の様に並んでいるのでございます。三方の壁には今申す丹塗(にぬ)りの長持が、ズラリと並び、一方の隅には、昔風の縦に長い本箱が、五つ六つ、その上には、本箱に入り切らぬ黄表紙、青表紙が、虫の食った背中を見せて、ほこりまみれに積み重ねてあります。棚の上には、古びた軸物の箱だとか、大きな紋のついた両掛け、葛籠(つづら)の類、古めかしい陶器類、それらに混って、異様に目を()きますのは、鉄漿(おはぐろ)の道具だという、巨大なお(わん)の様な塗物(ぬりもの)、塗り(だらい)、それには皆、年数がたって赤くなってはいますけれど、一々金紋(きんもん)蒔絵(まきえ)になっているのでございます。それから一番不気味なのは、階段を(あが)ったすぐの所に、まるで生きた人間の様に鎧櫃(よろいびつ)の上に腰かけている、二つの飾り具足(ぐそく)、一つは黒糸縅(くろいとおどし)のいかめしいので、もう一つはあれが緋縅(ひおどし)と申すのでしょうか、黒ずんで、所々糸が切れてはいましたけれど、それが昔は、火の様に燃えて、さぞかし立派なものだったのでございましょう。(かぶと)もちゃんと頂いて、それに鼻から下を覆う、あの恐ろしい鉄の面までも揃っているのでございます。昼でも薄暗い蔵の中で、それをじっと見ていますと、今にも籠手(こて)脛当(すねあて)が動き出して、丁度頭の上に懸けてある、大身(おおみ)(やり)を取るかとも思われ、いきなりキャッと叫んで、逃げ出したい気持さえいたすのでございます。
 小さな窓から、金網を越して、淡い秋の光がさしてはいますけれど、その窓があまりに小さいため、蔵の中は、隅の方になると、夜の様に暗く、そこに蒔絵だとか、金具だとかいうものだけが、魑魅魍魎(ちみもうりょう)の目の様に、怪しく、鈍く、光っているのでございます。その中で、あの生霊の妄想を思い出しでもしようものなら、女の身で、どうまあ辛抱が出来ましょう。その怖わさ恐ろしさを、やっと(こら)えて、兎も角も、長持を開くことが出来ましたのは、やっぱり、恋という曲者(くせもの)の強い力でございましょうね。
 まさかそんなことがと思いながら、でも何となく薄気味悪くて、一つ一つ長持の蓋を開く時には、からだ中から冷いものがにじみ出し、ハッと息も止まる思いでございました。ところが、その蓋を持上げて、まるで棺桶(かんおけ)の中でも覗く気で、思い切って、グッと首を入れて見ますと、予期していました通り、(あるい)は予期に反して、どれもこれも古めかしい衣類だとか、夜具、美しい文庫類などが入っているばかりで、何の疑わしいものも出ては来ないのでございます。でも、あの極った様に聞えて来た、蓋のしまる音、錠前のおりる音は、一体何を意味するのでありましょう。おかしい、おかしいと思いながら、ふと目にとまったのは、最後に開いた長持の中に、幾つかの白木の箱がつみ重なっていて、その表に、(ゆか)しいお家流で「お雛様(ひなさま)」だとか「五人囃子(ばやし)」だとか「三人上戸(じょうご)」だとか、書き(しる)してある、雛人形の箱でございました。私は、どこにも怪しいものがいないことを確めて、いくらか安心していたのでもありましょう、その際ながら、女らしい好奇心から、ふとそれらの箱を開けて見る気になりました。
 一つ一つ外に取り出して、これがお雛様、これが左近(さこん)の桜、右近(うこん)(たちばな)と、見て行くに従って、そこに、樟脳の匂いと一緒に、何とも古めかしく、物懐しい気持が漂って、昔物のきめの(こま)やかな人形の肌が、いつとなく、私を夢の国へ誘って行くのでございました。私はそうして、暫くの間は、雛人形で夢中になっていましたが、やがてふと気がつきますと、長持の一方の(がわ)に、(ほか)のとは違って、三尺以上もある様な長方形の白木の箱が、さも貴重品といった感じで、置かれてあるのでございます。その表には、同じくお家流で「拝領(はいりょう)」と記されてあります。何であろうと、そっと取り出して、それを開いて中の物を一目見ますと、ハッと何かの気に打たれて、私は思わず顔をそむけたのでございます。そして、その瞬間に霊感というのは、ああした場合を申すのでございましょうね、数日来の疑いが、もう、すっかり解けてしまったのでございます。

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