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青木品川の両人実物幻燈におびえること

时间: 2023-09-04    进入日语论坛
核心提示:青木品川の両人実物幻燈におびえること東京に着くと、愛之助は駅からS博士講演会場へ電話をかけ、品川に事の次第を告げ、彼の用
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青木品川の両人実物幻燈におびえること


東京に着くと、愛之助は駅からS博士講演会場へ電話をかけ、品川に事の次第を告げ、彼の用事が終る時間を確めて置いて、その夜更け品川宅を訪ねた。
「僕はちっとも気がつかなんだ。 しか し、君の電話で驚いて、あの新聞の知合いの記者に電話で頼んで、やっと今、その写真の複写を取寄せた所だ。写真版じゃ本当のことは分らないからね」
愛之助が這入って行くと、品川は八畳の客間に待ち構えていて云った。 紫檀 したん の机の上に幻燈器械の様な妙な形の道具と、その そば に一枚のピカピカ光る台紙なしの写真が置いてあった。見ると、例の夕刊の写真と同じものだ。
「この器械は?」
「エピディアスコープと云って、不透明なものが大きく映る幻燈器械だ。これで、この写真のもう一人の奴を拡大して見ようと思ってね」
それは彼の商売柄、雑誌社で取次販売をしている実物幻燈器械であった。
そんなことをして たしか めるまでもないのだけれど、両人とも幻燈という様なものに、一種の魅力を感じている男であったし、拡大された相手の顔の しわ の一本一本に、 穿鑿 せんさく 的な興味がないでもなかった。
電燈を消すと、鳥の子の無地の ふすま の上に、写真の両品川の顔の部分丈けが、ギョッとする程大きく映された。
本当の品川は真面目顔、もう一つの方はニヤリと笑って、無修正の、ボタボタと 斑紋 はんもん をなした陰影が、暗闇の二人に向って、ニューッと迫って来る感じだった。
「僕一つ笑って見るから、あの写真の顔と比べてくれ給え」
品川はそう云って、器械の後部の光線の漏れている所へ、自分の顔を持って行って、寄席の怪談のお化けみたいに、ニヤッと歯を出して見せた。
「そっくりだよ。まるで、そうしている君の顔が、そのまま向うの襖へ映っている様だ」
愛之助は云っている間に、ゾーッと くび のうしろが寒くなった。
「君。もう止そうよ。何だかいやな気持になって来た」
愛之助は幻燈というものに、常々一種異様の恐怖を持っていた。そこへ、影と実物と合わせて三つの、寸分違わぬ品川四郎だ。彼が子供の様におびえたのも無理ではない。
電燈をつけて見ると、当人の品川も蒼ざめていた。
「あいつ、俺の影みたいに、いつもつき纏っていやあがるんだね。エ、そうとしか考えられないじゃないか」
「初めは遠くから、少しずつ少しずつ、じりじりと近寄って来る感じだね」
「オイオイ、おどかしちゃいやだぜ」品川は思わずビクッとして云った、「まだ別に害を こうむ った訳じゃないけど、もう捨てては置けないね。非常に危険な気がする。何を企らんでいるか分らない丈けに、そして、相手がどこの何者だかさっぱりえたいが知れぬ丈けに、余計恐ろしいのだ。僕は僕の雑誌にこの事を広告して見ようかと思うのだが」
「広告って?」
「この写真をのせてだね。こんな風に私と全く同じ人間がいる。私はこの第二の自分の存在について非常な危険を感じている。どうか名乗って出て欲しい。又この人物を知っている人は知らせて貰いたい。という文句を大きく書くのだ。そうして置けばいくらか予防になると思うのだ」
「君の雑誌には打ってつけの読物にもなるね。だが、君の心配する危険は已に始っているかも知れないぜ。というのは………」
と、愛之助は思い切って、先夜の鶴舞公園の 一伍一什 いちぶしじゅう を物語った。
「で、君は奥さんを、今でも疑っているのか」
それを聞くと、品川は はにかみ とも恐怖ともつかぬ変な表情で尋ねた。
「いや、もう殆ど疑っていない。多分別の女だったのだろう。だが、場所が丁度僕の近所だからね。何か意味ありそうにも思われるのだ」
品川はふとおし黙って、何か考えていたが。「若しかしたら」と独言を云いながら、突然立って部屋を出て行ったかと思うと、一通の封書を手にして帰って来た。
「ちょっとこれを読んでごらん」
愛之助は妙なことを云うと思いながら、何気なく封書を受取って、中の書簡箋を拡げて見た。そこには女文字で次の様に記してあった。
道ならぬこととは知りながら、それ ゆえ にこそ身も世もあらず嬉しくて、あの夜のこと、君のおん 身振 みぶり 、君のおん こと 、細々としたる末までも、一つ一つ、繰返し心に浮べては、その度毎に今更らのように顔あからめ、胸躍らせて居ります。お笑い下さいまし。わたくしあの様な愛を、あの夜というあの夜まで、嘗つて夢見たことすらなかったのでございますもの。小娘の様に、本当に本当に、わたくし夢中でございますのよ。でも、又いつお目もじ出来ますことやら、西と東に所を隔てました上、あなた様は御多用の身、それに道ならぬ恋の悲しさは、わたくしからお側に参ることも叶わず、つろうございます。本当に恋というもののつらさもどかしさが、今初めて、しみじみと分りました様に思われます。お すい もじ下さいまし。………………………
愛之助は非常な早さでそれを読んだ。遂には読むに耐えなくなって、末尾の三四行を飛ばして、 名宛 なあて を見た。
四郎さまみ前に 御存じより
とある。明かに夫ある女から、品川四郎への恋文だ。
「僕はまるで心当りがないのだよ。併し、封筒の宛名は確かに僕だ。僕がどこかの細君と不義をしているのだ。余り思いがけないことなので、誰かの人の悪いいたずらと思っていたが、君の今の話を聞いて見ると、この手紙にはもっと恐ろしい意味があるのかも知れない。つまり、その鶴舞公園で話をしていた女から、偽の品川四郎への手紙が、本物の僕の所へ舞い込んだのかも知れない。なぜと云って、見給え、差出人の所も名も書いてないけれど、消印が確かに名古屋だ。……オヤ、君どうかしたのかい」
愛之助は唇の色を失って、顎の辺に鳥肌を立てていた。だが何も云わない。
「この手紙だね」
「…………」
「オイ、どうしたというのだ。アア、君は、筆蹟を見ているのかい」
「似ている。僕は悲しいことに、この恋という字の風変りなくずし方を覚えていたのだよ」
「君の細君のかい。……だが君、女の筆蹟なんて、大抵似た様なものじゃないか。……女学校の御手本通りなんだからね」
「そうだ。今度に限ってあいつが東京へ一緒に行くと云い出した訳が分った。あいつはこちらで、君と……イヤもう一人の男と、存分逢う積りなんだ、その下心だったのだ」
そして、それ以上には、お互に云うべき言葉を見出し兼ねた。夜更けの八畳の座敷で、二人はぽつねんと向い合っていた。
「僕はもう帰る」
愛之助が非常に不愛想に云って立ち上った。
「そうか」
品川も白々しい気安め文句は口にしなかった。
玄関をおりて下駄を 穿 くと、愛之助はひょいと振り向いた。上りがまちの 障子 しょうじ もた れて品川が見送っている。
「一寸君に聞いて置くが」愛之助が無表情な顔で、途方もないことを口にした。「君は本当に品川四郎なんだろうね」
相手はギョッとして思わずうしろを振返った。そして、妙にうつろな笑い方をした。
「ハハハハハ、何を云ってるんだ。冗談はよし給え」
「アア、そうだった。君は品川君だね。もう一人の男じゃなかったのだね」
愛之助は、そう云ったまま、ふいと格子戸の外へ出て行った。
まるで悪夢につかれた人間のように、彼の足は 蹌踉 そうろう として定まらないのであった。
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