返回首页

後篇 白蝙蝠

时间: 2023-09-04    进入日语论坛
核心提示:後篇白蝙蝠しろこうもり第三の品川四郎さて、それから、この可哀想な猟奇者はどうなったか。その変なラボラトリイでどんな奇怪な
(单词翻译:双击或拖选)

後篇  白蝙蝠 しろこうもり


第三の品川四郎


さて、それから、この可哀想な猟奇者はどうなったか。その変なラボラトリイでどんな奇怪な事が起ったか、等々は暫く のち のお楽しみとして、ここではもっと別の方面から、事件全体の姿を眺めることにする。というのは、この 二人 ににん 品川の怪事は、実は一猟奇者の身の上話という丈けではなく、一時は東京中を、いや日本中をさえ湧き立たせた所の、非常に大きな犯罪事件の謂わば序幕をなしたもので、それが今や、本舞台に移らんとしているからである。作者もこれまでの様に、ゆっくりゆっくりと筆を運んではいられなくなって来たのだ。
青木愛之助の細君の芳江は、あの晩愛之助が 何故 なぜ あんな変な様子をしていたのか、まるで に落ちなかった。読者も已に推察されている通り、彼女は全く無実であったのだ。ただ、愛之助が余り恐ろしい顔色をしていたものだから、それにつられて、ついこわばった表情になり、愛之助の誤解を裏書きする様な結果になってしまったのだ。愛之助の方で、それ程も、怪物の 偽瞞 ぎまん に物狂わしくなっていたのだ。
翌日の夕方頃まで待っても、愛之助が帰らぬので、 昨夜 ゆうべ の恐ろしい顔色といい、どうもただ事ではないという気がされて、もう居ても立ってもいられなくなった。
そこで芳江は、東京では夫君の最も親しくしている品川四郎を訪ねて相談して見ようと思立った。若しかしたら、品川の所に泊り込んでいないとも限らぬのだから。
で、支度をして、婆やに留守を頼んで、いつも乗りつけのタクシーの帳場まで、二丁ばかりの道を歩いて行くと、これはどうだ。まるで申し合わせた様に、向うからその品川四郎がやって来るのに、バッタリ出会ったのである。
「マア、品川さん」
「どちらへ」
「御宅へ御伺いしようと思って。実は青木が変な様子で外出したまんま、帰りませんものですから、若しやお宅にでもと思いまして」
「アア、そうでしたか。イヤ、御心配なさることはありませんよ。実は 麻雀 マージャン の手合わせがありましてね、池袋のある家に居続けなんです。僕も昨夜はそこで泊ったのですが、今日も仕事をすませて、これからそこへ行く所なんです。で、あなたを御誘いしようと思いましてね。 みん な御存知の連中です。いらっしゃいませんか。青木君も歓迎するに きま ってますよ」
「マア、そうでしたの。じゃ、あたし、どうせ出かけたのですから、このまま御ともしますわ」
という訳で、両人肩を並べて、タクシーの帳場に向ったことであるが、これは又どうしたというのだ、この品川は一体全体どの品川なのだ。
彼の言葉が一から十まで嘘っ八なことは、読者がよく知っている。だが、例の幽霊男の方は青木に殺されてこの世にはいない筈だ。では、本当の品川四郎が、こんな嘘をついて、芳江をおびき出そうとしているのだろうか。行先は池袋だ。池袋と云えば例のラスト・マーダラアの 跳梁 ちょうりょう した怪屋の所在地だ。この男はどうやら芳江をそこへ連込もうとしている様子であるが、まさか本物の品川がそんな真似をする筈はない。青木が池袋にいるなんて嘘を云う 理由 わけ がない。では、ここにいる男は、幽霊男でもなく、本当の品川四郎でもないとすると、奇怪奇怪、又しても全然別な第三の品川四郎が出現したのであろうか。変な云い方だが、品川という男、一体幾つ身体を持っているのか。(だが、読者諸君、あんまり馬鹿馬鹿しいと怒ってはいけない。この謎はじきにあっけなく解けるのだから)
途中何のお話もなく、車は池袋のとある一軒家に着いた。案の定それは例の怪屋であったが、芳江はそれとも知らず、品川そっくりの男のうしろから、そのうちへ這入って行った。
「マア、妙なうちですこと。まるで空家の様じゃありませんか」
芳江は家具も何もない、ひどくほこりの溜った、広い板床の部屋を見廻して、不気味そうに尋ねた。
「青木はどこにいますの」
品川そっくりの男は、うしろ手に、ピチンと ドア の鍵をかけて、ニヤニヤ笑いながら答えた。
「青木? 青木と申しますと」
「マア……」
芳江は唇の色を失って、立ちすくんでしまった。非常に恐ろしいことが、今自分の前に笑っているのは品川と非常によく似た別人だということが、薄々分って来たからである。
「あなた、どなたですの。品川さんじゃありませんの」
乾いた唇で、彼女はやっと云った。
「品川四郎。アア、あの好人物の科学雑誌社長のことをおっしゃっているのですか。違いますよ。僕はあの人の影なんです。影だから名前はありません。つまり第二の品川ですね。併し、本物よりはちっとばかり利口なつもりです」
怪物は 叮寧 ていねい な言葉で、絶えず 微笑 ほほえみ を浮べながら、事もなげに説明する。
「不思議ですか。不思議でしょう。 双生児 ふたご ででもなければ、こんなによく似た男が二人いる筈はないと思うでしょう。ね、思うでしょう。そこですよ、そこに我々人間の大きな弱点があるのです。 古来 こらい の犯罪者達が、どうしてこの大きな弱点を見逃していたか、私は気が知れませんよ。これを利用しないのは嘘じゃありませんか。これを利用すれば、どんな大仕事だって、国家というものを根底からくつがえすことだって、或は全世界を一大動乱に導くことだって、造作はないのですよ。例えば、この僕が品川四郎ではなくても、彼の百層倍も×××××とそっくりの顔をしていたと考えてごらんなさい。……ね、分るでしょう、それがどれ程恐ろしい意味を持っているか……」
彼は段々演説口調になりながら、この美しい聞手を前にして、いい気持ちになって、何事かを喋ろうとしていた。もう少し放って置けば、どんな恐ろしい秘密を打明けたかも知れないのだ。だが、折角の所で、とんだ邪魔が這入ってしまった。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%

热门TAG:
[查看全部]  相关评论