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喰うか喰われるか(2)

时间: 2023-10-08    进入日语论坛
核心提示:「おれは何も君たちを干し殺すつもりはないんだよ。さぞ腹がへっただろうね。君たちが案外おとなしくしていたのに免じて、ご馳走
(单词翻译:双击或拖选)

「おれは何も君たちを干し殺すつもりはないんだよ。さぞ腹がへっただろうね。君たちが案外おとなしくしていたのに免じて、ご馳走(ちそう)をしようと思うんだ。ところで、言っておくがね、猿ぐつわを取ったからといって、無闇(むやみ)に大きな声を立てたりするんじゃないぜ。もっとも、君たちがそんなことをすりゃあ、こいつがズドンとお見舞い申すんだから、いっこうかまわないようなもんだが、おれだってなるべくなら人殺しはしたくねえ。円満にやりたいからね。どうだい、声なんか立てないと誓うかね。そうすりゃあ、このミルクを飲ませてやるんだが」
明智も神谷も、残念ながらお腹がペコペコだった。男の慈悲を受けるほかはない。それに、明智としては、猿ぐつわをはずした機会に、この男に尋ねてみたいことがあったのだ。
「フン、二人とも声を立てないというんだね。ヨシ、それじゃいま猿ぐつわをとってやるぜ」
男は二人を抱き起こして、それぞれ彼らの(くく)られている柱に上半身をよりかからせ、猿ぐつわをはずしてくれた。
「ハハハハハ、そんなに心配しなくってもいい。僕は大声なんか出しゃしないよ。僕はこんなみじめなざまを人に見せたくはないんだからね。助けになんかこられちゃあ、僕の方こそ困るんだよ。安心したまえ」
明智は相手の男が油断なくピストルを構えているのを見て、ニコニコしながら言った。
「ウン、そうか。なるほど、そういやそんなもんだな。明智ともあろうものが、このざまじゃあね」
男は憎々しく言って、ピストルを下げた。
「僕は君に二つ三つ尋ねたいことがあるんだが、その前に()ずそいつを飲ませてくれたまえ。なにしろ(のど)が乾いて仕方がないんだ」
明智と神谷とは、次々に、男の手から一本ずつの牛乳を取って、うまそうにゴクゴクと飲み終った。神谷青年は、グッタリとして、物をいう気力もない。口をきくのは明智ばかりであった。
「やあ、ありがとう。うまかったよ。ところで先ず第一に尋ねたいんだが、きのう僕をここへ案内した飯屋のおかみさんとかいう女は、たぶん君たちの仲間だったんだろうね。君たちというのは、つまり『人間豹』の一味のことなんだが」
それを聞くと大男は唇の隅で嘲笑(あざわら)った。
「フフン、それを今気づいたのかね。遅かったねえ。するとお前さんはゆうべじゅう助けのくるのを心待ちにしていたんだね。フフン、そいつは虫がよすぎらあ」
事実、明智はそれを不思議に思っていた。彼がこの空き家にはいったまま、いつまでも出て行かないのを知ったら、あのおかみさんはこの事を警察へ訴え出るに違いないと思っていた。だが、いつまで待っても救いのこないところを見ると、あのおかみさんそのものが賊の一味であって、明智をこの空き家へ誘い込むために、巧みなお芝居をうったとしか考えられぬ。あのとき家主に断わってきたというのも、でたらめだったに違いない。
「ホウ、なかなかやるねえ。あの女は名優だよ」
明智は感に()えて言った。
「すると、このうちの借り主というのは君だったのかい。僕は恩田自身がここにいるんだと思ったが」
「そう見せかけたのよ。でなくっちゃあ、けだものは(わな)にかからないからね。おれがこのうちの(あるじ)だよ。おれのほかには(ねこ)の子一匹いないのさ」
「ホウ、君一人か。それで(こわ)くないのかい。いくら(しば)られていたって、僕は明智小五郎だよ」
「アハハハハ、おどかすない。おらあ一人じゃねえよ。ここにもう一人、ちっちゃいけれど、恐ろしく強い味方がいらあね。いくら名探偵だって、身動き一つさせるこっちゃあない……おらあ命しらずの(ごん)てえもんだよ」
男は小型のピストルを、手の平の上で、ピョイピョイと踊らせながら、ふてぶてしく答えた。
「ところで、君は僕たちを一体どうしようっていうのだい。恩田は君に何を命令したんだい。二人とも殺してしまえとでもいいつけられたのかい」
明智がからかうように尋ねた。
「ウン、いずれはそういうことになるらしいんだ。だが、今じゃない。まあ、夕方までは大丈夫らしいよ」
男は歯をむき出して、憎々しく宣告した。
「ホウ、夕方まで?」
「ウン、それまでは、人間豹の方で手の離せないことがあるんでね。()うか喰われるかっていうやつだよ」
「喰うか喰われるかだって?」
明智が妙な顔をして、するどく尋ねた。「喰うか喰われるか」、その言葉に何かしら記憶があったのだ。
「アババババ、こいつは言うんじゃなかったっけ。なあにね、ともかく夕方まではお前たちの命に別状はないっていう話さ。それだけのことよ」
急いでごまかそうとしたが、この重大な言葉を迂闊(うかつ)に聞き流す明智ではなかった。彼はその奇妙な文句が、もしかしたら愛妻文代さんの運命を暗示しているのではないかと考えた。どうもそうとしか思えない。だが、いったいどんな運命を?
彼はじっと空間を見つめたまま、頭の(しん)(きり)をもみ込むようにして、何かを思い出そうとあせった。長い沈黙がつづいた。今にも思い出せそうでいて、すぐにも手が届きそうでいて、なかなか浮かび上がってこない一物(いちもつ)を、必死になって考え出そうとした。

 

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