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虞美人草 十 (11)

时间: 2021-04-11    进入日语论坛
核心提示:「御前がこしらえたのかい。感心に旨(うま)く出来てる。御前は何にも出来ないが、こんなものは器用だね」「どうせ藤尾さんのよう
(单词翻译:双击或拖选)
「御前がこしらえたのかい。感心に(うま)く出来てる。御前は何にも出来ないが、こんなものは器用だね」
「どうせ藤尾さんのようには参りません――あらそんな椽側(えんがわ)へ煙草の灰を捨てるのは御廃(およ)しなさいよ。――これを()して上げるから」
「なんだいこれは。へええ。板目紙(いためがみ)の上へ千代紙を張り付けて。やっぱり御前がこしらえたのか。閑人(ひまじん)だなあ。いったい何にするものだい。――糸を入れる? 糸の(くず)をかい。へええ」
「兄さんは藤尾さんのような(かた)が好きなんでしょう」
「御前のようなのも好きだよ」
「私は別物として――ねえ、そうでしょう」
(いや)でもないね」
「あら隠していらっしゃるわ。おかしい事」
「おかしい? おかしくってもいいや。――甲野の叔母(おばさん)はしきりに密談をしているね」
「ことに()ると藤尾さんの事かも知れなくってよ」
「そうか、それじゃ聴きに行こうか」
「あら、御廃しなさいよ――わたし、火熨(ひのし)がいるんだけれども遠慮して取りに行かないんだから」
「自分の(うち)で、そう遠慮しちゃ有害だ。兄さんが取って来てやろうか」
「いいから御廃しなさいよ。今下へ行くとせっかくの話をやめてしまってよ」
「どうも剣呑(けんのん)だね。それじゃこっちも気息(いき)を殺して寝転(ねころ)んでるのか」
「気息を殺さなくってもいいわ」
「じゃ気息を活かして寝転ぶか」
「寝転ぶのはもう好い加減になさいよ。そんなに行儀がわるいから外交官の試験に落第するのよ」
「そうさな、あの試験官はことによると御前と同意見かも知れない。困ったもんだ」
「困ったもんだって、藤尾さんもやっぱり同意見ですよ」
 裁縫(しごと)の手を()めて、火熨に逡巡(ためら)っていた糸子は、入子菱(いりこびし)(かが)った指抜を()いて、(しろかね)の雨を刺す針差(はりさし)を裏に、如鱗木(じょりんもく)の塗美くしき(ふた)をはたと落した。やがて日永(ひなが)の窓に赤くなった耳朶(みみたぶ)のあたりを、平手(ひらて)で支えて、右の(ひじ)を針箱の上に、取り広げたる縫物の下で、隠れた(ひざ)を斜めに(くず)した。襦袢(じゅばん)の袖に花と乱るる濃き色は、柔らかき腕を音なく(すべ)って、くっきりと普通(つね)よりは明かなる肉の柱が、(ちょう)と傾く絹紐(リボン)の下に(あざや)かである。

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