「地球という星のみなさん。やっと、あなたがたとお会いすることができました。わたしは、うれしくてなりません」
通りがかりの人びとは驚いて足をとめ、いっせいにそっちを見た。その青年はおとなしそうな顔つきで、小さなカバンをさげていた。青年はにこにこ笑いながら、またもこう言った。
「みなさんといっしょに、この記念すべき日を祝いましょう」
人びとはびっくりして聞いていたが、そのうち、だれかが気がついたように言った。
「あっ、そうか。きょうは四月一日、エイプリル・フールか。冗談を言って他人をかついでもいい日だった。これはうまくやられたな」
それにつれ、ほかの人たちもうなずきあい、おもしろそうに笑った。なかには、手をたたく者もあった。それに答えるかのように青年は頭をさげ、さらに声をはりあげた。
「喜んでいただけて、わたしもやってきたかいがありました。わたしたちの星は文明が高く、平和的です。みなさんのお役に立てるでしょう。これからは、お望みのものがあれば、わたしが連絡して、なんでもとりよせてさしあげます」
しかし、人びとはもう相手にしなかった。
「わかったよ。だが、ここではもう、だれも驚かないよ。その話をしたいのなら、べつな場所に行ってやりなさい」
と声をかけ、かまわずに歩きはじめようとした。だが、青年はあいかわらず、大声をあげつづけた。
「わたしが来たことによって、みなさんは、すばらしい生活ができるようになるのです……」
こうなると、人びとのなかには怒る者もでてきた。
「くどすぎるな。ちょっとした冗談なら楽しいが、こう度がすぎては人さわがせだ。通行のじゃまになる。警官にたのんで、連れていってもらおう」
しかし、べつな人はこう言った。
「いや、そう悪い人でもなさそうですよ。きっと、頭がおかしいのでしょう。気の毒な人です。病院へ連れてゆくべきでしょう」
この意見に賛成する人が多く、寄ってたかって青年を病院に引っぱっていった。青年は、
「なにをするのです。わたしは、みなさんのために来たのです」
と叫びながらあばれたが、ひとりでは、かなうわけがなかった。
その病院には、優秀で熱心な医者がいた。また設備もよく、あらゆる薬もそろっていた。だから、その青年をなおしてしまうのに、そう長くはかからなかった。
医者は青年に言った。
「さあ、手当ては終りました。あなたはまだ、自分がほかの星から来たような気がしますか」
「いいえ、そうは思いません」
「では、これで全快です。もう決して再発はしないでしょう」
「ありがとうございました。しかし、わたしはどこへ帰ったらいいのでしょう」
「自分の家を忘れてしまったのですか。あ、そうそう、あなたはカバンを持っていましたね。あれをあけてみたら、わかるでしょう」
青年のカバンがあけられた。なかに入っているものは、地球ではだれも見たことのないような機械だった。たいへん複雑で使い方はわからないが、どうやら連絡用の通信機のように思えた。医者はあわてて言った。
「さては、あの話は本当だったのか。たのむ、これを使って、あなたの星と連絡をとって下さい」
しかし、青年はきょとんとした顔だった。
「これは、なんです。どう使って、どこへ連絡しろとおっしゃるのですか」
もはや、もとには戻りそうになかった。