「こんどは、どんな薬を作ろうとなさっているのですか」
「夢を見ることのできる薬です。ずいぶん苦心しましたが、やっと試作品が完成しました。これがそうですよ」
と、エフ博士は、そばの机の上にあるビンを指さした。なかには、白い粒がいっぱい入っている。アール氏は、目を丸くして感心した。
「それはすばらしい。そんな薬ができてくれれば、わたしたちの生活は、いっそう楽しいものとなります。好きな夢が、自由に見られるというわけですね」
しかし、エフ博士は手を振って答えた。
「いや、まだそこまでは、むりです。いまのところは動物だけです。これを飲むと、夢に動物があらわれてくれます」
「なるほど、そうでしたか」
「つぎには、植物の夢を見られる薬の研究です。いずれは、山や海などの景色のあらわれるのも作ります。ひととおりそろったら、それぞれ組合わせる研究ですよ。たとえば、うまく組合わせれば、海岸の松の上をツルが舞っている、というのになるわけです」
「すてきな夢を完成するのも、容易なことではありませんね。で、この粒を飲むと、どんな動物があらわれてくるのですか」
と、アール氏はビンを見つめながら質問した。
「いろいろ作りましたが、みなまぜてしまいました。馬のもあり、ウサギのもあります。もちろん、ヘビとかハゲタカといった、あまり人気のない種類のはやめましたが」
エフ博士の話を聞いているうちに、アール氏はためしてみたくなってきた。
「一粒でいいから、飲ませて下さい」
「いいですとも。家へ帰ってから、ベッドに入るまえに飲んでごらんなさい。少しわけてあげますから」
エフ博士は十粒ばかり小さなビンに移し、さし出した。アール氏は聞いた。
「人体に影響はないのでしょうね」
「その点はご心配なく。何回もたしかめてみました。また、夢のなかで、動物にひっかかれたり、かみつかれたりすることもありませんよ」
「どうもありがとう」
アール氏はお礼を言い、わけてもらった薬を持って、大喜びで帰宅した。そして、寝るまえに一粒を飲んでみた。すると、その夜の夢にクマがあらわれた。おとなしいクマで、いっしょに遊んでくれた。背中にのせてくれたり、スモウの相手になってくれたのだ。ちょうど、金太郎になったような気分だった。目がさめてから、アール氏はつぶやいた。
「ききめはたしかだ。ただながめるだけのテレビとは、またちがった面白さがある。よし。今夜は少し多く飲んで、たくさんの動物があらわれる、にぎやかな夢を見ることにしよう」
その晩には三粒を飲んでみた。眠りにつくと、まず夢にネコがあらわれた。毛なみのいい、かわいいネコだ。しかし、それと遊ぼうとしたとたん、つぎに犬があらわれた。ネコはアール氏をそっちのけにして、あわてて逃げはじめた。
犬はほえながら追いかける。そればかりではない。三番目にあらわれたライオンが、その犬を追いかけはじめたのだ。
そして三匹とも、どこか遠くのほうにいってしまった。それっきり朝まで、夢ではなにもおこらなかった。
アール氏は、目がさめてから残念がった。
「やれやれ、せっかくの薬を、むだにしてしまった。たくさん飲んだから、それだけ面白いというものでもないようだな」