鳥はものすごい勢いで、宇宙船の窓ガラスにぶつかってきた。激しい音がひびいたが、丈夫なガラスは、割れなかった。
しかし、たえまなく突っつかれていると、そのうち、ひびが入るかもしれない。
「いい気持ちではないな。いちおう飛び立つとするか」
と、操縦席に入りかけるキダに、ハルコが言った。
「そうしたら調査ができないわ。もう少し、ようすを見ましょうよ」
そして、窓のカーテンを引いた。なかの人影が見えなくなったためか、もう鳥たちはぶつかってこなかった。カーテンのすきまからそっとのぞくと、鳥はそのへんを飛びまわり、木になっているヤシの実のようなものを突っつき、なかみを食べていた。くちばしはとても鋭いようだ。
みなは鳥の観察をしたり、着陸前にとった写真をもとに地図を作ったりした。やがて夕方になり、鳥たちは森に帰っていった。
「この星では、夜のほうが安全なようですよ。プーボに見まわってきてもらいましょう」
と、ミノルに言われたプーボは、外へ出て、近くをひとまわりして帰ってきた。そして報告した。
「鳥は眠っているし、ぶっそうな動物はいません。出ても大丈夫です」
キダとミノルとハルコは、それぞれ宇宙服をつけ、光線銃と小型ランプとを持って外へ出た。
空には小さい月が輝いていたが、森に入ると、その光もとどかない。みなはプーボを先頭に、一列になって奥へ進んでいった。とても静かだった。地面にはコケがはえていて、足音も立たないのだ。
木にはツタがからまり、白い花が咲いていた。ハルコはつみとりたかったが、それはやめた。はじめての星では、なにをするにも注意しなければならないのだ。ときどきランプの光にむかって、大きな虫が飛んでくるが、宇宙服を着ていれば心配ない。
みなは、だまって歩きつづけた。
その時、突然「ギャア」という鳴き声がし、ミノルの肩に、なにかが当った。
ランプの光で、ねぼけた鳥が木から落ちてきたのだ。おそろしい鳥に襲いかかられたのかと思い、ミノルは飛び上がって驚いた。
そして、思いきりかけだした。ほかの者が呼び止めるひまもなかった。宇宙船に逃げ帰るつもりだったが、森のなかではよくわからない。とうとう、まいごになってしまった。
ミノルが疲れてすわりこむと、宇宙服についている通信機からキダの声が聞こえてきた。
「ミノルくん、どこにいるんだ……」
ミノルのまわりは限りなくつづく森だけだ。ミノルは心細い声で答えた。
「わかりません。それより、さっきの鳥はどうなりましたか」
「地面に落ちたまま眠っている。あわてることはなかったのだ。ミノルくんは、宇宙船の電波をたよりに戻ってくれ」
みなの腕時計には、特別な針がついている。針はつねに宇宙船の方角をさしていて、それについて進めば帰れるのだ。だが、ミノルは悲しそうに答えた。
「かけだした時、木にぶつけて、それがこわれてしまいました。ぼく、このまま、まいごになってしまうんでしょうか」
するとプーボが言った。
「わたしにはさがせます。いまの場所を動かず、歌を歌って待っていてください。その通信機からの電波をたよりにさがします」
キダとハルコは、プーボのあとについて歩きはじめた。途中、ハルコが小さな川に落ち、プーボに助けてもらったりした。
そのうち、木の根に腰をおろしてしょんぼりしているミノルを、やっとみつけることができた。
「よかったわね。一時はどうなることかと、とても心配だったわ」
と、ハルコはほっとして言った。
キダは時計を見て、あわてて言った。
「思わぬことで、時間がかかってしまった。まもなく夜が明けはじめる。それまでに宇宙船に帰れるかどうか……」
みなは大急ぎで歩いた。地球だと明るい朝になれば、こわい夢は消えてくれる。しかし、ここでは、朝になると、あの、おそるべき鳥たちがあばれはじめるのだ。
空が少し明るくなりかけてきた。プーボはこう言った。
「まにあわないかもしれません。近くに、かくれる場所があるかどうか、さがしてきます」
そして、からだをふくらませ、森の上に浮き上がってあたりを見まわし、戻ってきて報告した。「少し先に丘があり、そこにほら穴があります。そのなかにかくれましょう。さあ、急いでください」
みなはプーボの教えた方角に急いだ。しかし、空はさらに明るくなり、木の上で、はばたきをはじめた鳥もある。みつけられたらおしまいなのだ。ハルコは息をきらせて言った。
「まだなの」
「あと二百メートルぐらいです。ここからも見えるでしょう」
プーボは指さした。まばらになった森の木のむこうに岩の多い丘が見え、そこにほら穴があった。それにむかって足を早めたが、鳥たちは、つぎつぎに目をさました。
穴まであと百メートルぐらいになった時、ついに一羽の鳥が飛びかかってきた。キダは光線銃でうった。みごとに命中したが、その鳥の叫びで、ほかの鳥たちが気づき、つぎつぎに襲いかかってくる。どうしたらいいのだろう。
その時、プーボが言った。
「みなさん、ここはわたしにまかせて、穴までまっしぐらにかけていってください」
どうするつもりなのか、聞くひまはなかった。ミノルと、ハルコをせおったキダは、穴をめざしてかけだした。鳥たちは襲いかかってくる。
プーボは、自分の指を一本はずし、地面にむかって投げた。それは破裂し、黒い煙を出した。煙幕だった。あたりは夕方の暗さになり、鳥はまごついている。そのあいだに、やっと穴にたどりつけた。なかはうす暗く、鳥もそこまでは追ってこない。みなはほっとし、一時に出た疲れのため、眠くなってきた。プーボは言った。
「わたしが見張っています。ゆっくり眠ってください。どうせ夜までは出られません」
みなは倒れるように横になった。何時間か眠り、起き上がったハルコが言った。
「あたし、また、あの赤い玉の夢を見たわ。すごくはっきりしていたわ」
「うん、ぼくも見たよ」
と、ミノルもうなずいた。キダは、ほら穴の奥を指さして言った。
「とすると、このほら穴の奥に、なぞがひそんでいるのかもしれないな」