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まぼろしの星(01)

时间: 2018-01-06    进入日语论坛
核心提示:歌うハト モリ・ノブオは少年だった。日曜日には犬のペロをつれて公園へやってくる。そこで午後をすごすのだった。 ふつうの子
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歌うハト
 
 
 モリ・ノブオは少年だった。日曜日には犬のペロをつれて公園へやってくる。そこで午後をすごすのだった。
 ふつうの子供なら、お父さんといっしょに遊ぶだろう。この公園にも親子連れの人が、たくさんきている。しかし、ノブオのお父さんは、半年ほど前から地球を留守にしているのだ。ガンマ星にある宇宙基地へ仕事で出かけ、あと三ヵ月ぐらいしないと帰ってこない。
 お母さんも、一日じゅうノブオの遊び相手になってはくれない。しかたがないので、学校の休みの日には、ペロと公園へきてしまうのだ。
 公園には、たくさんのハトがいる。ノブオはベンチに腰かけ、ぼんやりながめていた。
 その時、どこからともなく、小さな歌声がした。人と話でもしていたら、聞きのがしてしまうところだ。
「ぼくはハトだよ、ハトポッポ、青いお空を飛んでゆく……」
 だれが歌っているのかと、ノブオは、あたりを見まわした。しかし、近くには、それらしい人もいない。歌声は、ハトのむれのなかから聞こえてくるようだった。
「ハトが歌っているのかな……」
 注意してよく見ると、ほんとうにそうだった。ほかのハトは、ポウポウとかクウクウとか鳴いているのだが、なかで一羽だけ、歌いながらそれにあわせて首を振っているのがいた。ノブオは驚き、あまりのふしぎさに声を出した。
「おい、ペロ。歌っているハトがいるぞ」
 しかし、それは言わないほうがよかった。ペロは、むくむくした感じの小さな犬で、とてもかわいいのだが、すぐにほえたがるのだ。
 ペロはハトのむれにむかって、勢いよくワンとほえた。ハトたちは、いっせいに飛び立ち、空に舞い上がってしまったのだ。そっと近づけば、つかまえることが、できたかもしれないのに。だが、ノブオは歌うハトから目をはなさなかった。そのハトは、ほかのにくらべ、飛び方もどこか変っている。
 ずっと見つめていると、そのハトは一羽だけなかまから離れ、少しむこうにある高いビルの、三十階の窓のひとつに飛びこんでいった。これは、どういうことなのだろう。
「変だな、いまのハト。よし、なぞをつきとめてやろう」
 ノブオはペロを連れて、そのビルヘと歩いていった。ペロは小さいので、だいていれば受付けの人も文句をいわない。エレベーターに乗り、三十階でおりた。
 ドアを数えながら、ろうかを歩く。外から見て、おぼえておいた窓の部屋は、はじから十番目だ。
 胸がドキドキする。
「いいか、ペロ。ここで待っているんだぞ」
 それからノブオはベルを押した。このなかへ入ると、あの歌うハトの秘密がわかるはずだ。まもなく、ドアがゆっくりと開いた。なんだかこわいような気もしたが、ここで帰るのもしゃくだ。部屋のなかは暗く、一歩入ると、変なにおいがした。
「ふしぎなところだなあ……」
 ノブオがつぶやくと、うしろでドアが音をたててしまった。
 ノブオがはっと思ったとたん、そこでは信じられないようなことが起こっていた。
 あたりは宇宙だったのだ。たしかに、いまドアから部屋のなかへ入ったはずだ。しかし、理屈ぬきで、ここは宇宙のただなかなのだ。上も下もない、はてしない宇宙なのだ。どこを見ても、数えきれぬ星が、光っている。白、赤、青、さまざまに光っている。振りむいても、そこにはドアもない。やはり遠くまで星が散ってしまっている。そして、自分のからだは無重力となって、そのなかにポツンと浮いているのだ。
「なぜ、こんなことになったのだろう……」
 ノブオは考えようとしたが、頭のなかがめちゃくちゃになったようで、さっぱりわからない。また、考えるひまもなかった。
 その暗い宇宙のなかに、どこからともなく、銀色にぼんやりと光る変なものが現われたのだ。いつか水族館で見たクラゲのような感じだが、とても大きい。象ぐらいある。それが、ゆらゆらと動き、たくさんの足をふるわせながら、こっちへやってくる。ノブオは、逃げようとして手足を動かしてみたが、だめだった。地面の上ならかけだすこともできるのだが、無重力だと、そうもいかないのだ。
「ぼくはなにもしないよ、仲よくしよう」
 呼びかけてみたが、相手には、通じない。おばけクラゲは、すぐそばまできた。ノブオは決心した。あくまで戦ってやろう。むざむざやられてたまるものか。さあ、こい……。
 にらみつけていると、クラゲの足の一本がのびてきて、からだにさわった。べっとりとしてつめたく、ぞっとするようないやな感じだった。だが、ノブオはそれにかみついた。
 しかし、相手は、たくさんの足を持っている。一本にかみついただけではこたえない。ほかの足も、つぎつぎとノブオにからみついてきた。
「やい、離せ」
 もがいてもだめだし、ますます動けなくなる。ノブオは苦しがっているうちに、いつか気を失った……。
 
 気がついてみると、ノブオは|長《なが》|椅《い》|子《す》の上に横になっていた。そばで声がした。
「目がさめたようだね。どうだい、気分は……」
 顔をあげてみると、そばには五十歳ぐらいの男がいた。髪の毛にちょっとしらがのある、学者のような感じの人だ。また、そのそばには二十歳ぐらいの女の人が立っていた。やはり頭のよさそうな人だ。ふたりとも宇宙で働く人の制服を着ている。部屋のなかには、机があり、椅子があり、壁にはコンピューターがあった。宇宙や怪物はどこにもいない。ノブオは起き上がって言った。
「ペロはどこです。ぼくのペロは……」
「ああ、犬のことね。心配ないわよ。ほら、ここにいるわよ」
 女の人は床からペロをだきあげ、渡してくれた。たしかにペロだ。
「いったい、ここはどこなんです。ぼくはどうしたんですか」
 こんどは男の人が答えてくれた。
「ここは、きみが入った部屋の、となりの部屋なんだよ」
 窓の外を見ると、ハトのいた公園が下のほうに見えた。しかし、わからないことだらけだ。
「だけど、さっきドアを入ったら、そこには宇宙があったんですよ。ほんとうなんです。そこでクラゲのようなやつと戦って……」
「わかっているよ。さぞ驚いただろう。あれはみんな薬の作用だったのだよ。部屋の空気のなかに薬がまぜてあり、それを吸うと、すぐ無重力の宇宙にいる夢を見る。また、クラゲ怪物と戦う夢もだ……」
 ノブオは、変なにおいを吸いこんだことを思い出した。あれが、その薬のにおいだったのか。そういえば、真空の宇宙で声を出せたのもふしぎだった。でも、びっくりしたなあ。
「だけど、なんでそんなことをしたのです。そうとわかっていれば、もっと楽しめたのに。それから、歌うハトは、なにか関係があるのですか」
 なにもかも、ふしぎなことばかりだ。男の人はまじめな顔になって話しはじめた。
「わたしは、ガンマ星の基地の副所長のフジタです。ある事情で、基地で人をふやさなければならなくなった。しかし、宇宙はきびしいところだ。遊び半分の人間では、なんの役にも立たない。そこで、ひそかに試験をしてから採用する方針をたてた」
 そのあと女の人が言った。
「ロボットのハトがそうなのよ。小さな声で歌うハトなの。それに気がつくかどうかで、注意ぶかさがわかる。気がついたとしても、自分の耳や目に自信のない人は、気のせいだろうと、そのままにする。そんな人は、みんな落第なのよ」
「ロボットのハトだったのですね」
「ええ。つぎに、ハトの行先をたしかめ、正体をつきとめようとする性質でないとだめ。でも、注意力と視力がよくないと、この部屋とまではわからない。だから、ここへやってくる人は、いままでほとんどなかったのよ」
「薬で宇宙の夢を見させるのは……」
「どんなことにもたちむかう勇気があるかどうかの試験なのよ」
 ノブオは、からだをのりだして聞いた。
「それでぼくはどうなんですか。合格なのですか」
 フジタ副所長は言った。
「合格だ。われわれがつくった問題に、すべてパスしたことになる。しかし……」
 そして、困ったような顔になった。女の人が口を出した。
「あたしたちが期待していたのは、もっと年上の人だったのよ。あなたは、若すぎるわ。あ、まだ名前を言ってなかったわね。あたしは、ミキ・ユキエ。やはり、ガンマ基地の隊員なの」
 若すぎると言われ、ノブオはがっかりした。だが、ガンマ基地の人とわかり、たずねてみた。
「じゃあ、ぼくのお父さんをご存知でしょう。ぼくはモリ・ノブオといいます。元気かどうか教えてください。このところ手紙がこないんです」
 フジタ副所長は、ミキ隊員と顔を見合わせ、暗い表情になりながら言った。
「そうか、きみがモリ隊員のむすこさんだったのか。そうとは知らなかった。じつは話しにくいことなんだが、モリ隊員は、ある任務をおびて、基地を出発した。しかし、いまだになんの連絡もないのだよ。まだ、だめときまったわけではないのだが……」
 ノブオは心のなかで、なにかが火のように燃えはじめた。空のかなた、どこかの星で、いまお父さんがさまよっているのだ。
「ぼくを宇宙で働かせてください。お父さんをさがす手伝いをしたいのです。なんでもやります。苦しくても文句は言いません」
 ノブオの輝く目を見つめていたフジタ副所長は、うなずいて言った。
「よし、きみならやれそうだ。ほかの人とは意気ごみがちがう。しかし、宇宙は、決して安全なところではないのだよ。その覚悟だけは、してもらわなければならない」
「わかっています。いったい、ガンマ基地ではなにが起こっているのですか」
「くわしいことは、ガンマ星へ行く宇宙船のなかで話そう。原因不明の変なことが起こっているのだ。それを調べるために、何台もの宇宙船が基地を出発していったが、連絡を|断《た》ったきりのが半分だ。なかには帰ってきたものもあるが、その乗員たちは記憶を失っていて、報告にならない。きみのお父さんは、まだ帰ってこないほうだ」
「ぼくは、きっとやりとげてみせます」
 フジタ副所長は、ノブオの家までついてきた。お母さんはノブオの熱心さに負け、宇宙へ行くのを許してくれた。
 三日後、ノブオは空港から宇宙船に乗り、ガンマ星へと出発した。フジタ副所長も、ミキ隊員もいっしょだ。許可をもらってノブオはペロを連れてきた。
 
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