ガンマ九号は、あいかわらずあてもなく飛びつづけている。突然、ベルが鳴りはじめた。ミキ隊員が言う。
「レーダーに、なにかがうつったようよ」
宇宙船の速力をゆるめ、レーダーの示すあたりを望遠鏡でさがしたが、なにも見えない。それなのに、レーダーはそこになにかがあると音をたてつづけている。ノブオは首をかしげながら言った。
「計器のまちがいのようですね。なにしろ計器は、はじめからおかしいんだ」
「でも、いちおう、その場所へ行って調べてみるわ」
ミキ隊員は、宇宙服を着て、ガンマ九号の外へ出た。無重力の空間を泳ぐように進み、そこヘむかう。やがて、宇宙船に残っているノブオに無電で言ってきた。
「あったわ……」
「なにがですか」
「それが、妙なものなのよ……」
戻ってきたミキ隊員の手には、一枚の金属板があった。一辺が十センチと二十センチぐらいの四角いものだ。ノブオはそれを見て言った。
「板を横から見てたので、よくわからなかったんですね。しかし、なんでしょう」
「地図のようよ」
その金属の板には、ある星の上の地図らしいものがかいてある。その裏には、その星の位置を示す図がかいてある。
「ぼくたちがさがしている。まぼろしの星は、これなんでしょうか」
「さあ、わからないわ。だけど、そう遠くもないようだし、行ってみましょう」
ガンマ九号は、ふたたびスピードをあげ、そこをめざした。
だが、その星に近づいてみて、ふたりはがっかりした。たいした星ではなかったのだ。岩山の多い、ところどころに植物があるだけの星なのだ。生物がいるかどうかは、おりてみないとわからない。
「文明もないようですね。となると、この地図はなんなのでしょう。宝をうめた場所なんでしょうか」
「さあ、調べてみないと、なんとも言えないわね」
ガンマ九号は、地図の示す地点におりた。着陸するのに適当な、たいらな地面はほかになかったのだ。ノブオは外を指さした。
「地図によると、ここからむこうに進めば、問題の場所に行けるはずですよ」
「出かけましょう」
ミキ隊員とノブオは、ペロを連れて宇宙船を出る。岩の多い丘をいくつも越えて進むのだ。歩きながらノブオが言った。
「笑われるかもしれないけど、さっきから気になっているんです。どこからか、だれかに見られているような気がするんです。気のせいかな……」
「あら、あたしもそうなのよ。変ねえ。見まわしてもだれもいないのに」
ミキ隊員も、ふしぎがった。なんだかきみが悪い。ふたりは、光線銃をかまえながら、注意して進んだ。
そのうち、ふいにペロがほえはじめた。ふたりはびくりとし、足を止め、あたりを見まわす。しかし、なにもいない。
見えない敵が出現したのだろうか。それともペロがどうかしたのだろうか。
ペロははげしくほえつづけている。上をむいてほえているのだ。ノブオとミキ隊員は、それにつられ空を見上げ、驚いた。
ハゲタカをもっと大きく、ものすごくしたような鳥が三羽、襲いかかろうと急降下してきたのだ。急いで、光線銃をそれにむけ、引き金を引く、命中。鳥は、つぎつぎに、むこうの岩かげに、落ちていった。
「ああ、あぶなかった。ペロがほえてくれたおかげだ。まさか上からねらわれるとは思わなかったなあ」
鳥はやっつけた。だが、どこからか見られているという感じは、やはり消えなかった。
ふたりがまた進みはじめ、しばらくすると、空気をふるわせる鋭い音がひびいた。矢が飛んできて、少しはなれた地面につきささったのだ。
「あぶない。早く、その岩かげにかくれましょう」
ミキ隊員に言われ、ノブオは飛びこむように身をかくした。そっとのぞくと、毛皮をまとった原始人のようなものがいる。からだは馬で顔がライオンのような動物にまたがり、弓矢を持っている。しかも、ひとりでなく、たくさんいる。ノブオは呼びかけてみた。
「おおい、ぼくたち、戦うつもりはない。仲よくしましょう」
両手をあげて振ってみたが、その返事のかわりに、また矢が何本も飛んできた。
ミキ隊員は首をすくめながら、ノブオに言った。
「ここでやられるのはいやだし、住民を殺すのもかわいそう。麻酔弾を使いましょう」
それが命中すると、なかの薬の作用で、しばらく眠りつづける弾丸なのだ。ふたりはそれをうった。弓を持った原始人は、つぎつぎと倒れ、動物から落ちる。
どんどん飛んでくる矢のなかで、ふたりはうちつづけた。
必死に戦っていると、やがて相手は逃げていった。
「やれやれ、やっと助かった。あれだけ矢を射られて、ぼくたち、よくぶじだったですね」
まわりの地面には、たくさん矢がつきささっている。ミキ隊員は言った。
「ほんと。当らないですんだのが、ふしぎなくらいよ。さて、これからどうしましょう。引き上げましょうか」
「ここまできて、戻るのは残念ですよ。さきへ進みましょう」
ノブオは元気に言った。いまの戦いで自信がついたのだ。ふたりは地図に従って、もっと行ってみることにした。
谷間のようなところを通ると、どこかでぶきみな物音がし、またペロがほえた。身がまえたとたん、岩のむこうからそれが出現した。
むかしの絵にある、竜のようなやつだ。大きなヘビのような形だが、口にはキバがあり、頭にはツノがあり、長いツメのついた手もある。
赤く長い舌を出して息をはくと、煙がこっちへ吹きつけてくる。
「あ、すごいのが現われた……」
ノブオは光線銃をうったが、その怪物はびくともしない。麻酔弾をうったが、それもだめだった。
ノブオは反省した。こうなってみると、宇宙船に戻って出なおしたほうがよかった。
しかし、いまさら反省してもまにあわない。怪物の弱点がわかればいいのだが、それを考える時間もない。怪物はどんどん近よってくる。ふたりは追いつめられてしまった。
ノブオは覚悟をきめ、ペロをだきあげて言った。
「おまえはすばやいから、逃げられる。かまわずに行っておくれ……」
しかし、ペロは逃げようとしなかったし、ほえもしなかった。
ノブオが見ると、ペロは口に石ころをくわえているのだ。
ノブオは思わずその石をにぎり、怪物にぶつけた。
それは怪物の目と目のあいだに命中し、そいつは苦しげな声をあげ、逃げていった。ノブオはほっとする。
「ああ、また助かった……」
「石が相手の急所に当るなんて、運がよかったわね」
「よすぎるようですよ。なにか物語の主人公になったみたいで、話がうますぎる。変な気分です」
「ふしぎねえ……」
地図に示された問題の場所は、もうすぐだった。なにがあるのだろう。ペロがさきへかけだし、安全ですと知らせるようにほえている。ふたりはそこへたどりつき、予想もしなかったものをみつけた。小さな丘の上に、銀色をした四角な装置のようなものがあったのだ。あたりの景色とは似つかわしくない感じだ。
「なんのためのものか、さっぱりわからないわね」
まわりを調べると、細長い穴のあいているところがあった。それを見ているうちに、ノブオは思いついた。地図の金属板を出して、そこへさしこんでみたのだ。
「ほらこれが、ぴったり入ります。なかへ入れてみましょうか」
「こうなったら、なんでもやってみましょう」
ミキ隊員がうなずいたので、ノブオはぜんぶ押しこんだ。ポトリと音がし、なかでカチカチという音がはじまった。
これからなにがはじまるのだろう。こわくて逃げ出したくなるような気持ちだが、また、どうなるかようすを知りたくてならない気分だった。
音がしなくなった。すると、箱の一部が開いて、なにかが出てきた。形は双眼鏡に似ている。ノブオは手にとってのぞいてみた。
「あっ、これは……」
そこには立体映画がうつっているのだ。ノブオたちが宇宙船を出てから、ここへ来るまでの冒険が、そのままうつっている。
大きな鳥をやっつけたり、弓を持った原始人をやっつけたり、竜を石で退治したり……。
もう一度見たいと思ってボタンを押すと、何度でも、それがうつるのだ。ミキ隊員も、のぞいて言った。
「こういうわけだったのね。もしかしたら、この星も一種の遊園地みたいなものかもしれないわ。自分を主人公にした冒険映画を、作っているわけよ……」
ノブオもうなずく。
「だれかに見られているような感じは、かくしカメラで撮影されていたからでしょうね。どうりで、ぼくたちに矢が少しも当らなかった」
「あの動物も住民も、きっとロボットだったのよ。一発も命中しないように、たくさんの矢を射るなんて、ロボットでなくてはできないわ。竜のような怪物は、石を投げれば急所に当るようにできているのよ……」
歩きながら、宇宙船へ戻ったが、途中、もう、なんの事件も、起こらなかった。矢も片づけられている。
ロボットたちが集めてしまいこんだのだろう。そして、つぎのお客の来るのを待ちつづけるのだ。
ガンマ九号は出発する。
「変な星でしたねえ……」
こう言いながらノブオは、自分の活躍する映画を、くりかえしのぞいた。なにも知らずにいっしょうけんめいに戦っている自分がうつっている。ながめると、楽しくてならない。
だれに見せても、本物と思うだろう。すてきな品だ。地球に帰ったら、みんなに見せてじまんしてやるんだ。こんなものを作った、どこかの宇宙人の気持ちがわかるような気がした。
だが、任務をはたして地球に帰れるのは、いつになることだろう。これからさき、どんな危険にめぐり会うか、わからないのだ。