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「父の指」

时间: 2016-10-18    进入日语论坛
核心提示: 男にしては華奢(きゃしゃ)な父の指が鉛筆を走らせていた。指から紡ぎだされるのは、詩でも俳句でもない。新聞の原稿だ。 原
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 男にしては華奢(きゃしゃ)な父の指が鉛筆を走らせていた。指から紡ぎだされるのは、詩でも俳句でもない。新聞の原稿だ。
 原稿用紙は縦罫(けい)だけのハガキより少し大きめのざら紙だ。軟らかな鉛筆の芯(しん)は紙の上を滑るように上下して、レ点が付いたり段落印が付いて、指には似合わない太目の字が淀(よど)みなく紙面を埋めていく。次の紙に移って、又(また)移って、原稿用紙は裏返しにして積まれた。左手は机の上で、節の目立たない細い指は、人差指(ひとさしゆび)を幾分立てて、紙を押さえている。
 一番鶏(どり)が鳴いて、そっと起き出すのは父だ。隣に寝ているのに気付かない。目が覚めると寝床は空で、温みも残っていない。蒲団(ふとん)はこんもりと山を作り、抜け出たそのままだ。
 誰よりも早く起きるのは、魚市場に取材に行くためだ。長い坂道を自転車で下り、水揚げ量などを取材してくる父は、市場から貰(もら)った魚と共に帰って来た。魚を捌(さば)いてから新聞社まで再びペダルを漕(こ)いだ。
 元々(もともと)はブロック紙の記者だったが、各地を転々として、最後は港町気仙沼の小さな新聞社に落ち着いた。専務兼編集長の肩書を持つ父は、誰よりも早く出社し、原稿用紙を火種にして、薪(まき)ストーブを付ける係でもあった。
 1年前に赴任した父の後を追って、兄と姉を除いた家族6人が釜石から移り住んだのは高校2年の秋だった。
 単身赴任が多かったので、父と暮(くら)したのは僅(わず)か10年程だ。一緒に暮し始めても広告依頼や取材で駆けずり回り、家で父の姿を見るのは稀(まれ)で、留守が当(あた)り前の毎日だった。
 珍しく食卓に全員が揃(そろ)うと、怖い父に変わった。座り方が悪い。迷い箸(ばし)は駄目、身が竦(すく)む食卓だった。一番恐怖を感じたのは、新聞を踏んだときだ。髪の毛が逆立つ程に怒り、そこら辺りの小物が飛んできた。踏みつけるのは、子供であっても許せなかったのだ。
 父の機嫌の良い日だった。「学校で何か面白い事ないか、何でもいいから書いてみろ」と原稿用紙数枚をくれた。頼まれたのが嬉(うれ)しかった。女学生の昼休みの噂(うわさ)話を書いてみた。囲み記事で掲載されたのは10日後だった。埋草(うめくさ)として使われたのだ。
 外面(づら)は良かった。会社に行くと名刺の裏に「じゃり1匹、お願いします」と書いて渡してくれた。黄門様の印籠(いんろう)のような物で、映画館でモギリに見せるだけで中に入れた。
 父は酒を飲む機会が多かった。付き合い酒もあったが、元々が酒好きなのだ。外での酒が大半で、家で晩酌する姿は記憶に無い。父の眠る寝室は、いつも酒の匂(にお)いが漂っていた。
 1月14日の夜、いつものように酒を飲んだ父が帰ってきた。蒲鉾(かまぼこ)を貰ったらしく、台所で煮てから眠りに着いた。夜半、トイレに起きる気配で目が覚めた。階下からゆっくり上がってくる足音、いつもと違う足取りだ。横になり「手がおかしい」と呟(つぶや)いた。「大丈夫?」と聞きながら眠りに落ちてしまった。
 朝起きて父の異変に気がついた。大きな鼾(いびき)をかき目を覚まさない。医者が駆け付け「大丈夫、目を覚ますから」と家族に説明した。だが、一日中鼾は止(や)むことなく眠り続けた。
 翌日は登校日である。高校生1人、小学生4人は後ろ髪を引かれる思いで学校に向かった。学校に着いて間もなく、険しい表情の先生に「すぐ家に帰りなさい」と告げられた。
 呼んでも目を覚ますことなく、鼾さえも止まり、僅かに口を開いているが、生きている証(あかし)は何もない。突然の別れに家族は狼狽(うろた)えた。兄は東京の大学に在学中で、16日はフランス語の講座があり、手帳に仏と書いたそうだ。偶然だろうが、怖い暗合だ。
 何故(なぜ)夜の内に隣室の母に知らせなかったのか悔やまれてならない。蒲鉾の煮付けまで作った父に、異変が起こるとは思いもしなかった。最後の会話を交わしただけに責任を感じた。48という歳(とし)は、逝くべくして旅立つ年ではない。心を残して形だけが消えた。
 数日が過ぎた寒い夜、ベランダに人の気配を感じ、戸を開けた。父が黒いオーバーを着て立っていた。ボタン1個が取れていて、華奢な指で押さえていた。「あっ」と声を出したら、闇に呑(の)まれるように消えていた。ボタンを押さえながら、旅の途中に寄り道をしたのだ。皆に顔を合わすことなく、二度と戻れない道、連れのいない旅に戻った。
 不思議な事が再び起きたのは、学校の帰り道に父の眠る寺を参ったときだった。中に入るや突然、寺が激しく揺れた。天井を見上げていたら住職が走って来て「駄目だよ、1人で来ては、だから地震が来たんだよ」と肩を抱いてくれた。父のメッセージかもしれない。何を伝えたかったのだろう。二度の不思議な出来事は、いつまでも心に残っている。
 父は原稿用紙とペンを持ち旅立った。今も取材していますか。原稿用紙は足りていますか。私は、数少ない思い出を細い糸で継ぎ接(は)ぎをしています。
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