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「魔法のことば」

时间: 2017-07-27    进入日语论坛
核心提示: 母を歯医者に連れて行った帰り、福祉タクシーの運転手さんが「今日石割桜満開だからちょっと前通っていきますか」と言ってくれ
(单词翻译:双击或拖选)
  母を歯医者に連れて行った帰り、福祉タクシーの運転手さんが「今日石割桜満開だからちょっと前通っていきますか」と言ってくれた。車椅子の母を思ってくれたのかとありがたくて少し弾んだ声で「見ていこうよ」と母の眼をのぞき込んだら、イヤというふうに顔をそらす。認知症で要介護5の母は歯の治療だけでへとへとなのだと思ったが「お願いします」と言って道を一本大回りして石割桜の前を通ってもらった。
 運転手さんは少しだけスピードを落としながら「今年はいつもよりピンクっぽいような気がするんだけど気のせいかなあ」と言ったのを受けて「いつもよりピンクだって」と母の肩をちょっとたたいて窓の外を指さしたが反応はない。あっという間に通り過ぎてしまう。気遣ってくれた運転手さんに申し訳ないなという気持ちと、母と一緒に桜を見るのは最後かもしれないなという感傷的な気持ちに支配されちょっと憂鬱(ゆううつ)になった。
 私はすぐさまその憂鬱を心の奥の方にある「あとで」と書いた引き出しに入れておくことにする。長年にわたる介護で培った私なりの技だ。とりあえず今は考えない。そうするとなんとなく感傷的な気持ちを俯瞰(ふかん)で見ることができて心が軽くなるような気がするのだ。そして「あとで」と思っていても新たな「あとで」が追加されて、しまいにはなんだったのかも忘れてしまったりした。
 十年前、介護生活が始まった頃には次々にやってくるどこに振り分けたらいいかわからない感情に負けて疲弊し暗澹(あんたん)たる気持ちになり、何か自分をうまくコントロールして気持ちを少しでも前向きにするテクニックが必要だと考え始めた。そんなときに「あとで」を思いついたのだ。いわば演劇の幕間のようなものだが効果てきめんで魔法の言葉だと思い、そう決めてからはなんでもかんでもその引き出しに入れた。
 しかし父の入院という事態から、もはや自分をちょっとだますような「あとで」という小技ではまったくどうにもならないくらいの忙しさに疲労困憊(こんぱい)してしまい、魔法の言葉はだんだん効果がなくなってしまう。しかも効果がなくなるどころかその引き出しに入れた数々の負の感情は澱(おり)のようにたまり、黒々とした訳のわからない恐ろしい大きな塊となって私を毒するようにさえなってきた。
 母に何の言葉もかけられない。好きな氷川きよしの曲を歌ってあげるのもいやだ。寝る前の手のマッサージもしてあげず、デイサービスから帰ったら一刻も早く寝てほしいと思い、なんでも急がせた。そして母が寝静まったあと自分の殻にこもり、その黒々とした恐ろしいモノと向き合いながらうんざりし「もうどうでもいい」と吐き捨てるように言った。その声は冷たく枯れて恐ろしく、私の正体を知り、自己嫌悪し、ほとんど眠れない夜が明けてまた一日が始まるのだ。
 うつろな気持ちで母の支度をし、ご飯を食べさせる。いつもなら無理にでも笑顔で元気に話しかけるのだがもうできなかった。
 そして夜、めいったまま無言でパジャマに着替えさせていると母が「ごめんや」とぽつりと言った。私ははじかれたように母を見た。その日初めて母の眼を見た。そこにはおびえたような眼のなかに私を気遣い、慰め、いたわり、感謝するさまざまな心があふれている。今まで一度も「ごめんや」などど言ったことはないのに、言えないはずなのに、絞り出されたその言葉に打ち抜かれた私は「大丈夫、大丈夫だよ、大丈夫」と母の背中や肩や手をなでながら何度も何度も繰り返した。
 母が大丈夫なのか、私なのか、それともどちらもなのか訳もわからず言い続けると母は「うん、うん」と言いながら安心したように少しおどけたように見えるいつもの顔をして笑った。
 私は黒々とした恐ろしい「あとで」の澱から解放されて正気になり母の眼を見て「おやすみ、またあした」といつもの声で言って規則正しい寝息が聞こえるまでそばにいて手を握っていた。
 なんのことはない、魔法の言葉は母が持っていたのだ。それはまやかしではない、技でもない、私の感情のすべてに寄り添い、救い、癒やし、認知症でさえも奪うことのできない母親という魂をまとった言葉だ。
 その言葉の力に私のただの感情のゴミ捨て場だった「あとで」の引き出しは消え「ごめんや」という小さい声がのこった。
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