そう言ってきたのは17歳になる末の息子だった。私は「連れてってもらうほど歳とってないぞ」と思ったのだけれどやはり嬉しかったのだ。
思い返してみれば母が東京に出てきた頃、一緒に東京タワーに登った。こんな高い建物に登ったのは初めてだと喜んでいる母を見て、こんなに無邪気に喜ぶ一面もあるのだなと新鮮な気持ちだった。東京の大学に進学すると言ったとき、その背中を押してくれたのは母だった。学費も一生懸命働いて払ってくれた。面と向かって感謝することもできず、私がした親孝行と言えば、東京タワーに一緒に登ったことくらいだった。
その母も東京タワーよりもっと高いところへ行ってしまった。もう会うことはできない。でも息子がその東京タワーより高い、東京スカイツリーに連れて行ってくれる。そんな息子を母のなるべく近くに連れて行くことができる。息子を母に見せることができるかもしれない。もしかしたら母に最後の親孝行ができるかもしれない。
今なら素直に言える。
おかあさん、ありがとう。
そして息子よ、ありがとう。