ひとはたやすく言うけれど
眠れない夜
風鈴の音に触発されるものは
遠い日の思い出ばかり
わたしだけ
ならすことができなかった海ほおずき
夏祭りのアセチレンガスの香り
花火大会でおんぶされた父のきゃしゃな背中
それらのものに包まれて
ふたたび眠りに落ちていく
いつかひとりぼっちになって
眠れない夜が続いた時
思い出の洪水にひたっていたい
心のなかで
いつもヒタヒタと小さな音をたてている
湖のほとりの
カメラ屋さんで
とびきり性能の良い写真機を買いましょう
みそっ歯の吾子の
あどけない笑顔を写しましょう
頓馬なわたしを本気で叱ってくれる
師の
激しく あたたかい目を現像しましょう
カメラ屋さんの隣のある
陶器屋さんで
口の広い両手にのるぐらいの
白磁のつぼを求めましょう
そして写真が
変色しないように
一枚一枚大切に保管しておきましょう
やがてくるかもしれない
眠れない夜が続くときのために