大きな瞳を細めながら
あなたがさし出した
小さな小さなピンクの花 モジズリ
緑の風が吹き抜けるテラスでの昼下がり
花自身によりも
その花に向けた あなたの眼差しの深さに魅せられたのかもしれない
あの時から モジズリが好きになった
野の花が好きになった
二学期の始業式の朝
あまりにも突然に
あまりにもあっけなく
あなたは一人 旅立った
前の日まで 二学期の準備を懸命にしていたのに…
運動会の小道具まで考えていたというのに…
学級園の夏の草花たちは 何も知らず咲き誇っていた
あれから九年
あなたの最後の教え子たちも はや二十一歳
あなたの生命は 何百もの生命の中に生きる
これからも 永遠に生き続ける
もと
秋が立ち 絹雲の浮かぶ空の下いつものメンバーで
あなたの眠る丘に登る
墓前には 秋の野の花々を手向けよう
ききょう おみなえし われもこう
萩 桔梗 女郎花 吾亦紅…
晩夏を迎えるたび この丘に立つのは
あなたという人を胸に刻み続けたいから
その日その時を大切に生きたあなたに 一歩でも近づきたいと思うから
静かに 内なる力を呼び起こし
心新たに 二学期のスタートを切る