思い出す人がいる
病魔との壮絶な戦いの果てに
区切られた生を
深いところで受け入れ
渾身の力を振り絞って
人間としての生命の灯を燃やしきり
静かに旅立っていったMさん
Mさんがいかに一生懸命に生きていたか
残された時間が
どんなにかけがえのないものであったか
自分を取り巻く人たちに
どれだけ心を残しながら
この世を去ろうとしていたか……
Mさんの記した日記の
一行一行がそれを物語る
夫から妻へ
父から四人の子供たちへ
教師から教え子たちへ
一人の人間から友人?知人たちへ
Mさんの深くあつい想いが
行間ににじみ出ている
旅立つ直前には世話になった人たちに
最後の挨拶状をしたためたMさんの遺志は
今も皆の心の中に生き続けている
Mさんが逝って
十三年目のこの夏
Mさんの長男に
新しい命が生まれるという
父のいる十キロ先のホスピスへと
毎日ひたすら自転車をこいだ
当時十五歳の少年が
もうすぐ父親になるという
Mさんの命は確かに受け継がれる
彼の命日にある八月に