毎年、春になると私にはつらい出来事がおこる。鼻がムズムズするのもそうだが、一番困るのは外を歩いていると、春風に舞いあげられた小さなゴミが、やたらと目の中に入ってくれることなのである。たとえば私の目がぱっちりしていて、いかにもゴミが入りやすそうな形状をしているというのならまだ納得できる。風が吹いてきても受ける部分の表面積が大きいのだからそれが仕方がない。しかし私の目は一重まぶたで人よりもちっこいのだ。
学生時代、みんなと連れだって帰るとき、決まって私だけが目にゴミが入る。二重まぶたでわたしよりもずっと目が大きい友だちは何ともないのにだ。涙をプロプロ流しているのを見て、彼女たちは、
「おかしいわねえ」
といって首をかしげた。必死になって涙でゴミを流し出そうと努力している私に同情してくれるどころが、腕組みしながら路上で議論し始めたりするのだった。
「四人が同じ条件で歩いていて風が吹いたら、どう考えたってあなたが一番入る確率が低いのにね」
理数関係が得意な子が冷ややかにいった。
「私は目が大きいほうだけど、そんなにゴミが入った記憶なんかないわ」
出目金というあだ名の子は、そういいながら私の顔をのぞきこんだ。やっとの思いでが流れ出てもしばらくは涙目が収まらず、涙と一緒にでてきた鼻水をずるずるやりながら、電車に乗るのが毎度のことだったのだ。
それから私はちっこい目の人に会うたびに、
「ゴミが入りやすいですか」
と聞くことにしている。驚いたのは私と同じような思いをしている人が、ちっこい目の人に多いということだった。話によると目の大小ではなくて、眼球の角度によってゴミが入りやすくなるそうなのだが、この件は自他ともにずっと不思議だといいながら、依然、解明されていない。